球体ディスプレイ,360度カメラ,ロボットハンドを搭載し,空間間コミュニケーションの統一モデルを構築するモバイルロボット「MetaPo」を提案する.MetaPoは物理空間と物理空間,サイバー空間とサイバー空間,サイバー空間と物理空間のペア間のポータルとして機能し,複数の空間のユーザのためのパノラマコミュニケーションとモビリティ機能による没入型インタースペースマイグレーションを提供する.さらにサイバー空間からロボットハンドコントローラ(RHC)を用いて物理空間のMetaPoに設置されたロボットハンドを操作することで,映像,音声だけでなく,ジェスチャーを加えたコミュニケーションを可能にする.これにより,多人数コミュニケーションにおける問題に対応し,且つ異空間コミュニケーション体験を向上させる.本論文では,MetaPoのコンセプトと最初のプロトタイプ,およびユーザ調査の結果について説明する.
サッカーにおいてドリブルは試合中に最もよく行われる動作の1つであるため,ドリブル技術の向上は必要不可欠である.ドリブル技術を向上させるには,ドリブルを行う際のボールタッチのリズム感を高めることが重要であるが,サッカーにおけるリズム感の向上を目指した練習方法や解説動画は少ない.そこで本研究では,サッカーのドリブル中におけるリズム感に注目した新たな練習方法として,ドリブル動作を用いたリズムゲームを提案する.プレーヤは時間内にできるだけ高いスコアを取るようにドリブル動作を行うため,ドリブル技術の向上が期待できる.1ヶ月間行った評価実験の結果,リズムゲームを用いてドリブルの練習を行った被験者は,従来のドリブル練習を行った被験者よりも,ドリブル中におけるリズム感が有意に向上した.これにより,提案システムによるサッカーのドリブル練習の有効性を確認した.
人は他者に見られている事実だけでなく,誰かに見られている意識によっても利他的行動が促進される.これまでに我々はPCを介したオンライン上で,他者の存在感(他者から見られている感覚)を与えることによって,利他的行動が促進されるか検証した.その結果,利他的行動が促進される傾向が見られたものの,実験参加者同士が顔見知りであった影響で,条件に関係なく促進されていた可能性があった.そこで本研究では,DeepFakeを用いて実験参加者の顔の特徴を取り除き,誰と一緒に実験をおこなっているのかわからないようにした状態でも,利他的行動が促進されるのか,実験経済学で使われている信頼ゲームを用いて調査した.その結果,他者の存在感なしとお互いの顔が見えている条件,他者の存在感なしとレコーディングマークのみが見えている条件での利他的行動の促進に関して,有意差が確認できた.
本研究では,ペットボトルのリサイクル促進における障壁の1つであるペットボトルラベルをはがす行動を習慣化させるために,おみくじの誘引性に着目したペットボトルラベル分別手法を提案する.提案手法は,ペットボトルラベル判定部とラベル判定およびおみくじ表示部の大きく2つにより構成されており,ユーザが実装システムにペットボトルを置くと,ペットボトルを撮影し,その撮影画像をもとにラベルの有無を判定し,ラベルがはがされていると判定される場合に,おみくじ抽選を行い,抽選結果により大吉から末吉までのいずれかを表示するというものである.
本論文では,本来なら見えない音の伝搬を,仮想的な環境の中でやまびこ風の現象として可視化し,利用者に音の空気中での伝搬速度に伴う遅延を体感させるシステムEchoParkを提案する.さらに,そのシステムを用いて,コウモリ等が持つエコーロケーション現象を,通常の可聴音で簡易に模した条件を作り出し,利用者が音だけで仮想空間中の物体位置を推定する状況設定を試みた.初期的なシステムを実装し,評価実験を行った結果について報告する.
映像編集ソフトやシミュレーションソフトウェア等では,対象となる二次元映像の時系列変化を概観あるいは制御するためのタイムライン表示が広く使われるが,多くの場合対象の時間軸方向の連続性が満たされないため,その変化を見落しやすい.この解消のために,対象映像中にスキャンラインを定め,スキャンされた線分領域を時系列順に並べて表示する手法としてVideo slicing法があるが,これは空間方向の連続性が満たされない.そこでVideo slicing法を拡張し,対象映像中のある幅を持った領域内でスキャンラインを時系列で移動させることで,時空間連続性を保つことを目指したタイムライン表示の手法としてTimeSpaceSliceを開発した.様々な映像を対象に同手法を試したところ,タイムライン上に観測対象の空間情報をある程度は保ちつつ,時系列変化を提示することができた.
ドアは建物や部屋と外界を繋ぐ境界面(インタフェース)であるが,室内の雰囲気をドアの外から感じ取ることは難しい.そこで,ドアノブを動物の尻尾のように物理的に動かすことで,部屋の中の雰囲気を表現するシステム「moodoor」を提案する.室内の雰囲気をドアの外に伝えることで,入室時のタイミングやドアの開け方等を調整できる可能性がある.
デスクワークにおいて猫背や仙骨座りといった不良姿勢をとり続けることは,首や肩の凝り,ストレートネック等の様々な疾患の原因となりうる.本研究では,空間音響を用いた聴覚フィードバックにより不良姿勢を矯正する手法の確立を目指し,このための初期検討として,聴覚フィードバックがユーザの座位姿勢やタスクの遂行に与える影響を調査した.聴覚フィードバックには,作業中に聴くことのできる音楽を用い,ユーザの頭部変位に応じて音楽の音量が空間的に変化するSpatial Sound(SS)条件と,SS条件に加えて,頭部変位に応じてホワイトノイズの音量が変化するSpatial Sound+Noise(SSN)条件を設計・実装した.これらの条件に空間音響を用いないBaseline条件を加えた3つの条件のもと,6名の参加者にデスクワークタスクを実施してもらう実験を行った.この結果,タスク中の頭部の変位量が,Baseline条件に比べてSS条件では37.9%,SSN条件では60.2%減少したことがわかり,空間音響を用いた姿勢矯正の可能性を確認できた.加えて,SS条件はSSN条件に比べて主観的に許容されやすいことがわかり,タスクへの干渉が少ない姿勢矯正手法となり得ることが示唆された.
Web会議は場所による制約を受けずにリアルタイムでのコミュニケーションが可能なため,2つの会議に同時に参加できる.しかし,複数のWeb会議に同時に参加する場合,複数の会議内容をリアルタイムに理解できないため,質問や意見などの発言が困難となる.そこで本研究では,複数のWeb会議に同時に参加している状況において,参加しているすべてのWeb会議の内容を理解し,発言などのインタラクション支援するシステムの構築をする.提案システムは録画された2つの会議映像の再生速度を上げることにより再生時間の短縮を行う.それらの映像を短い間隔で交互に視聴することで複数のWeb会議への同時参加を試みる.また,会議音声の字幕化,タイムシフト再生を用いて会議内容の理解を支援する.本稿では,提案システムを実装し,同時刻に行われる2つのWeb会議への同時参加か可能となるか調査した.結果,複数のWeb会議内容の理解は支援できるが,実際の会議へ違和感なくリアルタイムに発言することは難しいことが示された.
本稿では,多彩な夕焼けの表情を反転フラップ機構を用いて表現するシステム「SKY FLAP」を提案する.夕焼けの色彩を一枚一枚のフラップとして用意することで,連続的に切り替わる微妙な色合いの変化や,フラップがめくれる際のパタパタという音を楽しむことができる.
近年のビデオゲームは,視覚を用いることを前提としたものが大半であり,視覚障害者にとって簡単にプレイできるものではない.本稿ではビデオゲームにおいて使用頻度が高く,視覚への依存性が元々高いユーザインタフェースのデザインについて着目し,視覚障害の有無にかかわらず容易に使用できるデザインを検討した.筆者は現在までに「①音によるフィードバックを増やすこと,②操作対象の位置を明瞭にすること」の2点がアクセシビリティの向上のためのポイントであるということが示唆される結果を得ている.現在はこれらの知見を踏まえて新たに考察を進め,新規作成中のゲームアプリケーションでは「触覚的にUIを確認できる」UIデザインを実装した.
音楽ライブやコンサートにおいて,観客が参加できるライブ演出には,ペンライトなどが利用されている.また,主に楽曲のサビにおいて炎を上げるような演出がされており,盛り上がる場面であることを観客に示している.このような演出は,ペンライトを振るなどの観客のライブへの参加を促す役割を果たしているといえる.本研究では楽曲の盛り上がりと膨らみ浮かぶ風船に着目し,楽曲の盛り上がりを可視化することで観客のライブへの参加を促すシステムを提案する.本稿においてはペンライト型デバイスを振ることでヘリウムボンベから送られたガスにより風船が膨らみ,浮かんでいく機能を実装した.今後,風船を破裂させる機能の実装を計画している.
近年バーチャルリアリティ(VR)を利用したモデリングはある程度の有効性が示されているものの,デザインする対象の周囲を確認しづらく,対象物のスケールを何度も調整し全体を把握しながらデザインするなどの労力を必要とする. VR環境でデザインを行うユーザの負担を軽減するため,本研究ではVR空間における多視点を利用したデザイン手法M-Brushを提案する.提案手法は,デザインする対象物の反対側の視点や対象物の全体を捉える俯瞰の視点を通常の視点に追加し,画面分割を利用して他の視点からの映像を表示する.提案のデザイン手法の有効性を検証するために評価実験を行い,アンケートの結果,多視点を利用した場合の有効性とユーザフィードバックを確認した.
本研究では,被面接者の非言語行動(視線・表情・姿勢)の改善点を指摘する面接エージェントシステムを構築し,アサーティブコミュニケーションを用い,フィードバックした際の有効性を検証する.アサーティブコミュニケーションとは,相手の立場や意見を尊重しつつ,自分の意見や感情を伝えるコミュニケーション方法である.フィードバックが有用であるか脅威になるかは,被面接者の個人特性に依存すると考えられる.本研究においては,失敗学習傾向に着目し,失敗学習傾向低群,中群,高群に分類し,比較検討した.評価実験の結果,失敗学習傾向高群は, 「機能性」・「受容性」項目においてアサーティブフィードバック条件に比べて統制条件を有意に高く評価し,失敗学習傾向低群は,「CGエージェントへの好感」・「親身さ」項目において統制条件に比べてアサーティブフィードバック条件を有意に高く評価した.以上より,失敗学習傾向の高低に合わせて,コミュニケーションスタイルを適応させる面接エージェントの必要性が示唆された.
自らの技術を披露し,人との繋がりを生む音楽文化としてストリートピアノがある.ストリートピアノは,従来のコンサートよりも演者と観客の距離が近く,子供から大人まで幅広い人が演奏することができる.しかし演奏技術が未熟であることから弾くのを戸惑ってしまう人が一定数存在する.そこで本稿では,ピアノ未習熟者でもストリートピアノの演奏体験ができるシステムを提案する.利用者がモニターに表示されている楽譜上の音の進行を表すバーを見ながら鍵盤を押すと,PCに記録されている音のフレーズが順に再生される.リズムに合わせて鍵盤を押すことで,音が鳴り演奏気分を味わえる.
本研究の目的は小型で多方向の触覚提示装置の実現である.その実現のため2方向の振動合成が可能な電磁ソフトアクチュエータを開発した.開発した電磁ソフトアクチュエータは液体金属を封入した2つのソフトチューブと磁石を利用しており,ソフトチューブ内の液体金属に電流を流すことで,振動子を振動させられる.本研究ではこれらの構成要素によってせん断方向,押込み方向の触覚提示が可能かどうかを確かめ,入力信号の周波数に追従して振動させられることを示した.
人間の能力を拡張させる研究の一つに触覚能力の拡張を目指したものがある.ただ,これまで遠隔物体の微細な触覚情報を非接触に得て,それをユーザに知覚させる手法は検討されていない.本研究では,遠隔物体の微小な振動情報をレーザ計測しフィードバックすることで触覚拡張拡張を目指す.そこで,画素変動に反応するイベントカメラからレーザスペックルの高速変動に追従して指先にフィードバックする触覚拡張システムを提案する.物体の違いによって生じる周波数応答特性の違いを基にした振動刺激をフィードバックすることで,遠隔の物体の素材や表面属性を触覚で知覚することを可能とする.
柔らかさを持つ素材を使ったインタフェースは,加工や成形が容易で自分に合ったインタフェースを実現できる可能性があることから,近年研究が活発である.一方,形状や変形の自由度が高すぎるため,サイズや検知すべきジェスチャなどの指針がなくそれぞれの研究が実現できる範囲を提示するに留まっている.本研究ではこの指針を得るため,インフレータブルモビリティpoimoを題材に綿やスポンジなどの柔らかい素材を使い操作インタフェースをプロトタイピングするワークショップを実施した.本稿ではアイディアの紹介とともに,身体部位や変形方法,使用素材から分析した傾向についてまとめ,探索の過程で得られた知見について報告する.
合唱で美しい和音を実現するためには,自分の歌声を自分以外の歌声と協和させる技術が必要である.この技術を習得するための既存の練習では,歌手は指導者の指示に従って歌声の高さを調整する.しかしこの練習には,歌手が不協和を自覚して声の高さを調整する練習ができないという問題がある.そこで本研究では,不協和音で発生するうなりを聞き取りやすく合成して聞かせ,歌手に不協和を自覚させることで,歌声を協和させる技術の練習を支援するシステムを提案する.評価実験により,提案システムを使用した練習で,うなりを聞き取る能力が向上する可能性があった.
本稿では,単旋律譜面に対して隠れマルコフモデル(HMM)を適用することでタブ譜を生成するシステムを作成する.ギターの練習する際に使用するメロディが,奏者にとって難しい場合はモチベーションが下がってしまう可能性がある.メロディの変更を一部することを許容した上で押弦位置の移動を抑制したタブ譜を出力する.その結果,音域が広いメロディの楽譜に対して,音域を狭めたメロディのタブ譜が出力された.
概要:日本の伝統芸能の一つである能楽に用いられる能面を彫る能面師と情報工学の教育に携わる専門職大学教員との学際的な協力により実現した,能面をテーマとするインスタレーション「ベクトル」を能面の展覧会で公開した.今回はその意義を捉え直し,多様な観点から能面が持つ文化的な側面をふまえ,情報学に立脚するインタラクティブな発表の場で,能面に内在する人間の創造的な活動への示唆をも提供するものである.
活字だけで表現された小説は,登場人物等の情報を整理して物語の展開を把握するのが困難なことがある.解決方法の一つとしてメモしながらの読書が挙げられるが,この方法では情報を追加したときに最適なレイアウトにしにくく内容を柔軟に操作できない.また,メモの内容や構成をどうすべきかの判断が必要である.本研究では,読者が小説に注目する事柄を調査し,その結果をもとに電子書籍による読書を対象とした読書支援システムを実装した.さらに,提案システムが小説の内容把握の観点から読書を支援できているか評価するため,被験者にシステムを使用しながら読書をしてもらう実験を行った.実験の結果,提案システムの有無による内容理解度に有意差は見られなかったが,一部の被験者からシステムに対して肯定的な意見を得られた.
百貨店の香水売り場等ではアロマサイネージシステムが導入され,香りの広告・宣伝に用いられている.本稿では空中ハンドジェスチャで操作するアロマサイネージシステムAroMotionを構築・提案する.左右に扇ぐ動作で香りを切り替え,手前に扇ぐ動作で香りを射出する.ユーザの手で生み出される気流の効果により,切り替え時の消臭が早まることはもちろんのこと,香りが到達するまでの遅延も有意に短縮されていることを評価実験で確認した.
筆者らは,体から少しだけ離れた衣服の周りの空間が手付かずであることに着目し,「体の周りに浮かせて漂わせる」という新たなスタイルの衣服や小物の在り方に可能性を感じている.そこで,面や立体の布を一定の位置に浮遊させることや,手の動きと連動して浮かぶ布を動かすことができるシステムであるFloathを考案し,柔らかい布を面や立体として衣服の上を含む体の周りを浮遊させ,動的にその動きを変えられる表現の実現を目指す.本研究では,体の周りに浮かせて動かすことの特徴を活かした表現として,体や服の周りに浮遊する動的なエフェクトとテクスチャを提案する.
コロナ禍により,ハイブリッド形式で開催する学会が増えている.しかし,オンラインとオフライン両方の参加者に配慮した開催は従来のスタイル以上に困難となっている.本研究では,学会発表でのポスター・デモ発表を対象として,参加者間の意見共有掲示板を提案する.本システムを利用することで,オンライン・オフライン両方の参加者が意見を読み書き・共有でき,意見交流ができる.この際に,手書きで入力することで,直感的に文字の大きさを変えたり,強調したり,絵や図を描いたりでき,思っていることをより伝えやすくなる.
本稿では,ハウスミュージック(以下ハウス)における楽曲構成の自動推定を目標とし,ハウスの楽曲構成を比較的単純な方法で分析した結果について述べる.既存の音源分離技術を用いてドラムス,ベース,ヴォーカル,その他に分離し,それぞれに対して音圧(波形の二乗平均平方根)を計算してグラフとして描画した.また,分離前の音源の音圧に基づいてイントロ(導入部分),ドロップ(盛り上がり部分),ブレイク(盛り上がり部でない部分),アウトロ(終結部分)に分けて色付けした.分析の結果,ドラムスとベースは楽曲構成の展開に与える影響が大きく,その他のパートは楽曲構成の展開には関与が薄いことが分かった.また,イントロとアウトロの判定に関して改善の余地があることが分かった.
本研究では,機械学習を用いた骨格診断を行う機械学習モデルおよびアプリケーションの開発を行う.Blenderの人体モデルアドオンMB-Labを用いて3D人体モデルを作成し,それらを用いて機械学習のためのデータセットを構築する.物体識別ネットワークモデルであるEfficientNetをベースとした転移学習により,CG画像に対して約90%の正答率で骨格タイプの推定が可能な機械学習モデルを得ることができた.
本研究では,音によるユーザインタフェースを構成するSUI(Sound User Interface)を提案し,その実現を目的としたプロトタイプを制作した.音によるユーザインタフェースとは,GUIにおけるスクリーン上のアイコンやポインタなどを用いて行う同等の操作を,立体音響空間内に表現された音による操作として実現したものである.本プロトタイプは,動的バイノーラル技術を用いて実現した立体音響空間内で音オブジェクトの選択や移動などの操作が可能であることを示し,視覚を用いず,GUIに相当する利用価値をもつようにしようとしている,新たなユーザインタフェースの提案である.本稿では,音オブジェクトの選択を示す音響表現手法や,音響オブジェクトの移動を行うための操作手法について述べる.さらに,これらの手法をもとにして構築されるアプリケーションを実現するためのユーザインタフェースについて議論を行う.
近年音楽コンサートや舞台において無観客でのオンライン配信,また有観客公演のオンライン同時配信が増加している.しかし配信される映像は主催者で用意した1種類であるため,視聴者の多岐にわたるニーズに対応できていない.そこで映像編集ができるファン(ディレクター視聴者)に複数のカメラの収録映像を無編集で提供し,編集してもらうことで配信映像のバリエーションを増やすことで,多様なニーズにできる限り対応できるシステムを提案した.従来の1種類の映像,複数のカメラの収録映像をそのまま提供するマルチアングル映像と提案手法の3条件での比較実験を行ったところ,満足度はマルチアングル映像に及ばなかったが,複数の映像から選択可能であることは有益であること,動画の選択方法に改善の余地があること示唆された.
人間が本来知覚できない不可知な情報を視覚や聴覚,触覚刺激等の感覚に変調しユーザに知覚させることで,人間に新たな感覚を追加する感覚追加の研究を進めている.特に,本研究では,投影型身体拡張インタフェースにおけるユーザ手腕に連動した投影拡張手の運動に,ユーザの随意ではない運動(不随意運動)を生起させることでユーザに不可知情報を伝達する手法を提案する.本研究ではユーザの手腕の動きに連動し,直観的に投影拡張手を操作可能であるリストマウント型投影拡張手システムの実装を行った.また,不可知情報に基づき投影拡張手に不随意運動を生起させる機能を実装システムに組み込んだ.
スマートフォンの大型化により,画面の視認性はあがり,動画や書籍などが見やすくなっている.しかし,指の可動領域を超えた画面の大型化により,片手操作性が低下している.また,指が選択対象を隠すオクルージョンによる問題も存在する.これらの問題の解消のために,ソフトウェアでの工夫の事例がいくつかあるが,操作が煩雑になる問題がある.一方でハードウェアでの工夫は,追加のデバイスが必要となる物の,対象自体を操作するため,煩雑な操作を必要としない.そこで,我々は後者の手段としてMEMS触覚センサを使用した背面インタフェースの開発を行い,指の可動域に依存しない片手操作補助を可能にした.開発した背面インタフェースは,センサの垂直方向,剪断方向の加圧識別を行い,その方向に応じてカーソルの移動,クリックを行う.これにより,親指の可動領域外にカーソルを移動させ,その場所をクリックすることができるため,スマートフォンの片手操作を補えることが分かった.また,カーソルによる選択を行うため,指によるオクルージョンの問題が解消された.
本研究では粘菌を使用した画材を用いて人と共に作品を生み出す新たな表現手法を提案する.本稿では粘菌とは真正粘菌モジホコリのことを指す.本研究では粘菌の持つ,刺激によって広がり方が変わるという性質と着色できるという性質に注目し,着色した粘菌を画材とした「粘菌絵の具」を作成する.人が表現をする際は作者の意図のみで行われるが,そこに生物のランダム性が加わり,予期せぬパターンを付加できる.本研究では,粘菌の能力を活用し,人の作品制作や創作活動を支援する共創インターフェースを模索する.
近年,アクティブ・ラーニングの導入などの影響によりグループワークやグループディスカッションなどの複数人で議論を行う場が増加している.そのような場においては1人1人が主体的に取り組み,活発な議論をおこなうことで創造的アイデアが生まれるとされているが,消極的な人は発言を躊躇してしまう傾向にある.躊躇してしまう要因には社会的地位を気にしてしまうことや周囲の目を気にしてしまうことなどが挙げられる.本研究では,t特に周囲の目を気にして発言を回避しようとする問題を解決し,消極的な人の発言促進を目指す.具体的な手法として,発言に対する注目を緩和させ,他者からの批判に対する意識の希薄化を目指すためのMessOnChatを提案する.本手法の狙いは,複数の議題を同時並行で進行させながら,参照できるタイムラインを制限することで,発言への注目を分散させることである.本稿では実際に6人の被験者を対象に実験をおこない,複数の議題を同時並行で進めることが議論参加者にどのような影響を与えるのか,また注目緩和に繋がるのかを調査した.
音楽ライブパフォーマンスにおいて演者が用いるシンセサイザーの音色を観客がリアルタイムに変化させることができるデバイスを用いて,演者と観客が即興音楽的にその場限りの楽曲を作り上げるシステムを制作した.これまで視覚媒体を用いた音楽ライブでのインタラクションについての研究が多いが,我々は視覚媒体より聴覚媒体を用いる手法を使うことで,より直接的な新しいインタクティブな演奏形態を提示する.
高強度インターバルトレーニング(High-Intensity Interval Training,HIIT)とは,高強度・短時間の運動を休憩をはさみながら繰り返すトレーニング方法である.短時間で十分な運動効果が得られるメリットがある.HIITの運動効果は動作速度,運動時間,適切な姿勢などに関係するものである.本研究では,多人数で行うHIITに着目し,トレーニング参加者の平均動作リズムを音楽のテンポによってフィードバックする手法を提案する.具体的には,深度カメラで各参加者の骨格データを取得し,動作リズムの平均を計算した後,音楽のテンポの速さをリアルタイムにその平均に対応させて提示する.音楽のテンポ変化に従った参加者の動きの同期を期待し,モチベーションとトレーニング効果の向上を目的としている.本稿では,提案手法,プロトタイプシステムの実装,今後の実験計画について説明する.
COVID-19の世界的流行により注目が高まりつつある「バーチャルツーリズム」について,現状それらが「観光」の代替であり「旅」の代替でないことに着目した.「旅」を代替するコンテンツが未開拓である要因の一つとして,コンテンツの体験に時間がかかりすぎることが想像されるため,本研究では短時間で濃密な「旅」を体験できる移動システムを検討する.静止画である洛中洛外図などの表現手法を移動可能な形態とすることでその移動システムを実現し,その効果を「徒歩旅行」の観点から評価した.
従来のジグソーパズルは,ピースの絵柄や形などの静的な要素を手がかりとして,ピースの連続性を認知しパズルを完成させる.一方で,デジタルパズルの分野におけるジグソーパズルは,デジタルパズルならではの仕掛けを取り入れた作品は少ない.筆者は,インタラクティブ性のある要素を手がかりとしたルールを解き,ルールの変化に伴い難易度が変化するデジタルジグソーパズル作品である「Adap+ation」を制作する.被験者実験により,ルールの違いによって難易度が異なるゲームデザインになっていることを確認した.
本研究は,読詩体験を拡張することを目指し,拡張するための要素として詩のテキストにアニメーションを施し,これを物理的な本を手に取り味わうという読詩体験を提案するものである.MAVenReadVerseは,HoloLens2を装着したユーザがARマーカーを印刷した白紙のページが装丁された本を開くと,アニメーションを施した詩のテキストがページに合わせて重畳表現される環境である.本稿では,テキストアニメーションが施してある詩を紙の本で読むという体験が読詩体験に及ぼす効果について,実施したユーザ観察調査の結果を報告する.比較対象として,同一のテキストアニメーションが施された詩を読むことができるiPadアプリケーションを準備し,13名の実験参加者に対して読詩体験を比較してもらった.観察の結果から,読みやすさに関してはiPadアプリケーションが好まれるものの読詩体験の豊かさや面白さについてはMAVenReadVerseが好ましいとされる傾向があること,また,印象については個人,特に世代による違いが大きそうであることが示唆された.
物理的なピクセル群を制御して立体形状を表現する形状ディスプレイでは,形状変化に加えて色や質感の変化を両立するためには,別種の制御対象を扱わなければならず,装置が大型化することや,配線や制御が複雑化するといった問題があった.そこで本研究では,リニアアクチュエータ2本に対して取り付ける,駆動力を持たないモジュールを用いることで,他の機構を追加することなく,リニアアクチュエータ群のみを駆動源として,形状変化と色やテクスチャなどの質感の提示を同時に行う形状ディスプレイを提案する.簡易に取り付け・変更可能なモジュールを複数種類用意することで,手軽に任意の質感を表現することが可能な形状ディスプレイのデザインツールキットとしての実装を目指し,本稿では,数種類のモジュールによるプロトタイプについて報告する.
ウェアラブルデバイス特有のセキュリティリスクとして,装着者の身体に攻撃して生体情報を操作する攻撃が考えられる.我々の研究グループでは上腕を圧迫して光電式脈波センサ値を改変する腕締め付けデバイスを提案している.血液中のヘモグロビンは入射光を吸収する性質があり,脈波到達の瞬間は血液量が増大するため反射光が減少する.そのため,上腕を圧迫して血液量を減少させることでセンサ値を改変できる.本研究では上腕の圧迫によって光電式脈波センサで計測される脈波を意図的に制御してプレイするビデオゲームである(1)横スクロールゲームと(2)早打ちシューティングゲームの2種類を実装した.また,実装したゲームをグランフロント大阪にあるThe Lab.で展示して来場者にプレイしてもらって体験評価を実施した.
本稿では,サッカーの対戦状況の理解を促すことを目的として,サッカーの試合における選手の位置関係や動きの情報を視覚と聴覚で表現するシステムを試作する.多人数で行うスポーツにおいて選手の位置関係を把握することは,試合の状況分析において重要である.この目的に可視化を用いられることはあったが,可聴化を用いた例は見られない.本稿では,ボールの最近傍にいる選手および,そこから最も近い2名の選手からなる三角形を見出し,三角形に対して和音を与える形で可聴化を行う.本試行を拡張することで,可視化のみの場合よりも対戦状況を効果的に理解できるようになることが期待される.
動画に特化したSNSであるTikTokでのマーケティングが増えてくる中で,TikTokを有効活用し自身の価値をPRしたいと考える人々が増えている.しかし,その際にどの楽曲を使えば再生数が伸びるのかが分からず,使用楽曲の選定がTikTok参入への障害になっていることも多い.そこでTikTokで過去に流行した楽曲のデータから次に流行しそうな楽曲を予測・提示するシステムがあればこの問題を解決できると我々は考えた.TikTokで流行しそうな楽曲の見解については音楽関係の研究者やマーケターが示しているが,使用者がより直感的にそれらの楽曲を発見できることが必要である.本研究では過去のデータの分析を自動的に行い,毎週流行しそうな楽曲を更新し提示できるシステムBuzzLead(https://buzzlead.vdslab.jp/)を開発した.評価実験ではシステムが提示した楽曲が実際に流行しそうだと判断する実験参加者が大多数を占めるなど予測が有用であったと判断できた.
本研究では,ライフログ収集ツールとして身体・頭部・視線の3方向から一人称ライフログが閲覧できるビューアを提案する.一人称視点映像の中に頭部方向と視線方向の情報を書き込むことによって,身体方向,頭部方向,視線方向の関係性がわかりやすくなり,一人称ライフログ映像と同時に着用者の身体状況を記録できると考える.この記録から会話の発話内容だけでなく,その会話を取り込む周りの環境と身体状況に着目して,コミュニケーションの状況や会話の状況も分析できることが期待できる.本研究ではウェアラブルデバイスのみを用いる.着用者は胸に魚眼レンズを取り付けたカメラを身に着け,さらに同時にメガネ型のアイトラッキングデバイスを着用する.この2つのデバイスから得られた映像を使用して処理を行う.
In this paper, we explore the implementation of variable stiffness for shape-changing interface applications. We proposed a stiffness control mechanism using a combination of Pneumatic Artificial Muscle(PAMs) and 3D-printed reinforcement. The three reinforcements include a locking module, a plastic deformation module, and a rotational brake module. We demonstrate the feasibility of this mechanism through five application examples and conclude with a discussion.
近年,インターネットの普及によりオンラインでのコミュニケーションの機会が増加している.オンラインでのコミュニケーションは対面でのコミュニケーションと比較し,身振りや表情,視線といった非言語情報が損なわれてしまうことが分かっている.この問題を解決する方法として,テレプレゼンスシステムが提案されているが,日常での利用が難しいことや,カメラ映像を共有せずに対話を行いたいというニーズに対して課題が存在する.そこで,本研究では話し手と聞き手の目や口の動きを双方向に伝達し,会話相手の表情をディスプレイにイラストで表現することで,カメラ映像を共有することなく表情や視線といった非言語情報の伝達を可能にするアバターロボット『mimicube』を提案する.
ダンスを練習する方法として,動画観察による方法が一般的であるが,身体の複数の部位で異なる動作を組み合わせた複雑な身体運動を動画で見るだけでは,一度で全ての要素を確認できず,何度も見直す必要がある.また動画では,ポーズの変遷など時間変化もあり,複雑多数な情報が一度に提示される.そのため,次々と流れていく多数の情報に対して即座に理解し記憶する力が必要であり,個人の能力や経験に依存する.関連研究では,動画内の複雑多様な情報の理解を容易にするために,動作の時間的変化を仮想空間内に可視化する方法や,仮想現実感を用いて直接三次元姿勢を提示する方法が示されたが,テンポが一定でない学習を対象とした可視化による効果の検証にとどまっており,テンポを維持したままでのリズムに合わせた学習には対応していない.小学生の運動遊びの学習に関する研究では,リズムに合わせた刺激を与えることで,優位に身体技能の向上が見られることを確認した.本研究では,リズミカルかつ正確なダンスの習得のための,曲のテンポを維持したまま,リズムに基づいて抽出したダンスポーズをリズムに合わせて提示するコマ送り提示を用いたシステム「Dance with Rhythmic Frames」を提案する.
近年,持続可能な社会の実現に向けて,ゴミ問題に関する意識が高まっており,ゴミのポイ捨て等を防ぐための多様な提案が行われている.本研究では,家庭内でのゴミ捨てに着目し,習慣的なゴミ捨てを楽しく支援するゴミ箱型デバイスを提案する.本デバイスでは,複数のセンサを組み合わせてゴミの状態を検出し,LEDマトリクスを用いてリアルタイムに可視化することで,ユーザの行動変容を狙う.
本研究では,スマートフォンのみによる視線トラッキング手法であるHandyGazeを用いた展示案内アプリケーションの実現とその有用性の検討を行う.具体的な応用先として美術館や博物館,展覧会などの文化空間における展示案内に着目し,スマートフォンのみによる展示案内アプリケーションHandyGaze Guideを提案する.HandyGaze Guideでは,ユーザが展示物を注視するだけでその展示物に関する情報をスマートフォンから提示する.このアプリケーションの有用性の検証のため,12名の参加者を対象として,情報を取得しながら絵画を鑑賞してもらう実験を行った.実験では,HandyGaze Guideに加え,比較手法としてQRコード入力アプリ(QR Guide)の2つを,展示案内の主観的なユーザ体験に関する評価指標であるMultimedia Guide Scaleを用いて比較した.この結果,提案手法の平均スコアは,General Usability ScaleおよびLearnability and Controlのサブスケールでは比較手法と同等,Quality of interaction with the Guideのサブスケールでは比較手法よりも高かった.結果より,初めて使用する参加者にも問題なく受け入れられるユーザビリティであること,鑑賞と情報取得のシームレスさを実現できたこと,参加者が鑑賞している展示物の情報を提示できたことが考察された.
視知覚と自己の運動との間に不整合が発生させることを視覚刺激として疑似力触覚の提示が行われるが,一般には,能動的運動時に視覚刺激の制御が行われる.本研究では,受動的運動による視覚刺激を用いた疑似力触覚提示について提案する.Leap Motionを用いてのパーティクルの流れを体験する試作システムを構築し,同一の受動的運動による視覚刺激を制御した際の疑似力触覚生起に関して評価実験を行った.
近年,スマートウォッチやモニターを貼り付けたTシャツ,バックパック等,ウェアラブルデバイスを用いた情報伝達手段が増えている.本研究ではウェアラブルデバイスを用いた情報伝達手段のバリエーションとして,頭髪に表示装置を取り付け,後頭部を情報伝達手段として利用する方法を提案する.
グラスで飲むという日常的に行う動作には,注ぐ,傾ける,眺める,回す,流し込むなど様々な五感を使った魅力的な鑑賞行為・動作が含まれている.我々はこれらの体験のより楽しくするために,人のグラスに及ぼす動きや液体の状態に合わせて変化する映像の提示可能なグラス型デバイスを提案する.特に今回の論文では,その具体的な試作開発について述べる.更に,内蔵したカメラで撮影した画像から取り出せ得る情報を解析する.
DITTO (Digital Instruments and Tangibles Theater Orchestrated)プロジェクトは,物理法則に基づいて構成される物理的な世界と,物理演算に基づきシミュレートされる仮想的な世界との間で起こる相互作用に着目し,それぞれがどのように干渉し合い,ユーザがこれを一貫性のある「現実/reality」として認識できるかについてモデル化と原理の解明に取り組むものである.DITTOプロジェクトは体験可能なシンプルなツール群で構成されるExploratorium(エクスプロラトリアム:探索のためのツール群環境)として具現化を行っている.これまでに計13個のツール群のデザインと実装を進めてきた.本稿では,そのうちの光と色の物理現象を利用する2つ(DITTO#003およびDITTO#009)をとりあげ,物理的な世界と仮想的な世界との間で起こる干渉の事例を示す.
本研究ではオンラインユーザが手描きキャラクタを介して遠方の現実空間との接点を持つことができる新しいインタラクティブコンテンツの開発を行った.このコンテンツはWebページ上で描いたキャラクタが遠方の現実空間に投影される共創型プロジェクションマッピングであり,オンラインユーザは投影された映像をライブ配信で観察する.このとき,映像は立体的かつ現実空間の物体とのオクルージョンを正しく保って投影されるため,描いたキャラクタが遠方の現実空間に登場したように観察される.そして,オンラインユーザは身体動作やボタン操作によって遠方に投影された自分のキャラクタとのインタラクションが可能である.また,現実空間の人は投影されたキャラクタたちとのインタラクションも可能であり,オンラインユーザはその様子をライブ配信で観察することができる.実験では様々な場所から参加したユーザがコンテンツを楽しめる可能性があることを確認した.