仮想空間で使用するアバターの外見によって,性格や行動に変容が起きる心理効果を「プロテウス効果」という.この効果の発生には,アバターのステレオタイプに関連した訓練タスクが必要とされており,研究ごとに異なる訓練タスクを用意しなければならない.また,訓練によるプロテウス効果の発生と評価には,多くの手順を踏む必要がある.そこで本研究では,評価指標の1つである実験経済学のゲーム「最後通牒ゲーム」を用いて,訓練タスクと評価タスクを1つのタスクで行う方法を検証した.その結果,最後通牒ゲームは訓練タスクとして黒人アバターの攻撃性が増すという先行研究を支持し,評価タスクとして黒人アバターの承諾者役の交渉に特徴が現れる可能性を示唆した.このことから,最後通牒ゲームを用いて訓練と評価を統一化する手法は有効であり,本手法は実験設計の負荷軽減と研究間の容易な比較を実現する可能性がある.
VR環境下で身体動作を拡張することにより,ダンスの振付創作を支援するシステムChoreAugmentedの開発を行った.振付の作成手法として,既存の振付創作手法を参考に,仮想空間におけるインタラクションを想定した複数のメソッドを実装した.メソッドは,VRデバイスの入力を適用する身体部位の変更や動きの加工・増幅などにより,ユーザの動きとは異なる動作を生成する.仮想空間におけるダンスの振付創作の可能性をさぐるため,3人の振付家にシステムを体験してもらい,評価を行った.
多様な人間が活動するオフィスでは,その業務を向上させるために補助や助言を与えることが必要であるが,適切なタイミングの決定が難しいという問題がある.この解決策として,主たる業務を邪魔しない方法として,小型コンピュータによる音声データの取得と行動分析するシステムSLeSAS(Supervised Learning Source Analysis System)のプロトタイプの実装を行った.SLeSASプロタイプ実装を実際のオフィスで動作させることにより,性能に関しての課題点が明らかになった.
氷や雪が路面を覆う冬道は,不慣れな歩行者にとって転倒のリスクが高い.しかし,冬道の歩行を訓練する機会はあまりない.そこで,氷雪の歩行をトレーニングするゲームSRIPYを提案する.SRIPYでは,プレイヤーは靴型コントローラを装着し,ゲーム画面の指示に従って足踏みを行う.靴型コントローラに敷かれた圧力センサが足底部の圧力を6点で計測し,そのバランスが氷雪歩行に適さない不均衡な場合にゲーム内でフィードバックを行う.本研究では,感圧導電シートと銅箔テープ,M5Stackを用いて靴型コントローラを,Unityを用いてゲーム画面を実装した.8名の被験者に対して評価実験を行い,プレイ中の圧力データとゲームへの感想を収集し,それらを分析して課題を明らかにした.
筋力は年齢とともに低下し,その後の身体障碍や転倒リスクに大きな影響を与えることが知られている.本研究では筋力の中で簡便に測定することができる握力に注目し,単純なアタッチメントを用いてスマートフォンのタッチ座標の変化から握力測定を行う手法を提案する.5 Nから250 Nの間でアタッチメントに負荷をかけたところ,重量とスマートフォンの座標変化は線形近似で表せることが明らかになった.
昨今,様々なウェアラブル端末や生体センサが登場している.衣類型のセンサも多数提案されているが,その多くは体に密着させるものである.これは,あまり密着しない上着やスカートのような布上にセンサを実装すると,布の動きの影響を強く受けるためである.そこで我々は,織り構造による布圧力センサの出力値が,布の変形によっても微細な変化を発生させることに着目し,布圧力センサを用いた布形状および衣類形状の計測について研究している.我々は,3次元情報を2次元画像にマッピングすることで,盛んに研究されている多様な2次元画像を対象としたDNN技術を活用し,pix2pixを用いたことで,平均誤差39.1mmで60fpsの表面形状推定を可能とした.
文章作成は我々にとって身近な作業の1つである.しかし特に文章作成経験が不十分な執筆者の場合,文章の一部分に意識が向くあまり,全体として見ると一貫性がない文章を書いてしまうことがしばしばある.本研究ではそのような事態にならによう,部分と全体の2つの視点を用意し,特に過剰に部分に集中している場合に強制的に全体の視点に入れ替えることで,文章作成時にどちらか一方の視点に偏らせない手法を提案する.本稿では提案手法とそれを元に実装したシステムであるReConformation Editorの概要を説明し,その効果を検証する実験について述べる.
遠隔作業指示においては,実空間上の操作対象に対する注意誘導が必要となるが,通常のビデオ通話システムではその達成が困難である.このような課題に対して,頭部伝達関数を用いた立体音響によって注意誘導を行う手法も提案されているが,汎用的な頭部伝達関数では精度が低くなるという課題があった.そこで本研究では,空間音響を用いずに,利用者の注視方向と目標角度の差分に応じて動的に変化する非空間音響を用いて注意誘導を行うシステムを提案する.提案手法では,センサを用いて利用者の注視方向を取得し,目標角度との誤差に応じてヘッドフォンから提示する聴覚情報の音高を変化させる.本研究では,システムのプロトタイプを実装し,複数の音高変化パターンで注意誘導の所要時間を調査する評価実験を行った.
円環体を4等分した四分円環体を複数用いて,これらをモータで連結し,様々な動きや造形を試行する.その動かし方によっては,意志のある生物のように感じ,アニマシー知覚が生じたり,工業製品的,数理造形的な認識が生じたりする.本研究では,連結した6つの四分円環体を用いて,どのような動かし方の際に,アニマシー知覚がどの程度感じられるか,実際の試作を用いた実験を通じて,考察する.
本研究では,車体にかかる荷重位置をリアルタイムに可視化するデバイスを製作する.このデバイスでは,荷重移動を検知するセンサ部と荷重位置を可視化するディスプレイ部で構成される.センサ部では加速度センサと角速度センサを用いて荷重位置を検知し,ディスプレイ部では水面のメタファで可視化を行う.ドライバーに荷重位置を分かりやすく伝達することで,運転技術の向上を目指す.
In window management systems of Windows and macOS, simultaneous display of multiple windows and switching displayed windows are implemented as separate operations. In this paper, we propose Air Manager, a window management system that can perform both functions with a single operation using a viewpoint shift. Through this system, we have devised an operation method combining the simultaneous display of multiple objects and switching displayed objects, which are the two separate operations in conventional window management systems. We found a possibility to solve the problem of window management systems of Windows and macOS that require a separate operation each time to change the way windows are displayed between single-tasking and multi-tasking.
本研究は,山水画の鑑賞体験を高めることを目的として,山水画の画面構成をコラージュ形式で体験できるインタラクティブシステムを提案する.提案システムでは,ユーザは山水画の素材を組み合わせ配置することによって独自の山水画の構図を作ることができる.また,本研究では山水画の余白の大きさと山水画作品が描かれた時代に関連性があることに着目し,ユーザが作成した構図における余白比率に近い時代を判定して提示し,さらにその時代に関連する情報も提示する機能も実装した.これにより,体験者の山水画への興味や構図の理解を促し,鑑賞体験を高めることを狙いとする.
近年,コロナ流行の影響を受け,企業のテレワークや学校のリモート授業が急速に普及した.しかし,テレワークでは社員間の交流の質・頻度が低下する傾向があり,これに起因した様々な負の影響が危惧される.本研究では,テレワークと出社勤務の混在したハイブリッドワーク環境下において,オフィスと在宅の離れた社員同士がより高頻度・高品質なコミュニケーションができることを目的に,リアルとバーチャルのオフィスを交錯させたコミュニケーション促進手法を提案する.このうち,本誌ではオフィス拠点の提案手法について述べる.オフィス拠点と在宅拠点の社員のアバターが存在するバーチャルオフィスを構築し,オフィス拠点の社員の接近動作に合わせて,バーチャルオフィス上の仮想カメラを移動させることで,運動視差を発生させるインタラクションを提案する.この接近時のインタラクションにより,ソーシャルプレゼンスの向上を狙う.また接近時のインタラクションを出社した複数の社員に適用可能とするための機能を提案する.まずは提案手法のプロトタイプを作成し,少人数での主観評価を行い,提案手法の有効性を確認した.評価結果より,提案手法によってオフィス拠点の複数人の社員がより高いソーシャルプレゼンスを感じられることを確認した.
サッカーの試合では,11人のプレーヤからなる2つのチームが対戦しているため,プレーヤはボールを持っているかどうかに関わらず,周囲の状況を常に把握しなければならない.このような状況では,味方や敵のプレーヤの位置を探す「視覚的探索行動」が重要になる.しかし,ボールを持っている間の視覚的探索行動についての研究はほとんど行われていない.そこで本研究では,ボールを持っている間の視覚的探索行動を鍛えるために,ボールタッチの練習と視覚的探索行動の練習を同時に行うシステムを提案する.評価実験では,システムを用いて練習するグループと,システムを用いずに練習するグループに分けて,視覚的探索行動の能力の向上について比較した.その結果,システムを使用する方が,視覚的探索行動の能力が有意に向上することがわかった.
本研究は,レトロRPGゲームにおけるフィールドの階層構造に着目し,位置情報を含む任意のデータをレトロRPGゲーム風に変換する表現手法を提案する.位置情報を含むデータに対してレトロRPGゲームのフィールドのようなリンク構造でデータ間を関連付け,ゲームのようにキャラクタがフィールドとシンボル間を移動可能とすることで体験者が直観的かつ楽しくデータにアクセスすることが可能になり,それによってデータが指し示す対象の興味が増すことを期待する.本研究では,株式会社自営自足プランニングによる「2020年度版アニメ聖地データ」に対して提案手法を応用し,『Anisan Quest』と呼ぶアニメ聖地データのビューアコンテンツを制作した.アンケートの結果から,『Anisan Quest』は,普段よくゲームで遊び,レトロRPGゲームが好きな体験者には操作をすぐに理解し,楽しめるコンテンツとなっていることを確認した.
観光や地域振興を目的にスタンプラリーが行われている.スタンプラリーには,実物のスタンプで押印するリアルスタンプラリーと,その行為をモバイル端末の位置登録に置き換えたデジタルスタンプラリーがある.デジタルスタンプラリーでは,参加者の進行状況を主催者が把握することができるが,現状のリアルスタンプラリーにおいてそれを行うのは難しい.そこで,本論文では,リアルタイムスタンプラリーであっても,参加者の進行状況を主催者が把握可能なシステムを提案する.また,独自に企画したスタンプラリーにおいて,本システムを試用した結果を報告する.スタンプラリーにおいて,参加者の進行状況を把握するには,スタンプの押印を検知する必要がある.本システムでは,NFCを導入することで,それを可能にしている.
現代の動物園は,動物との触れ合いを通して情操教育を行う場になることが求められている.しかし,情操を育む取り組みにおける動物とのふれあいでは人間,動物の双方で精神的,身体的に傷つくことへの潜在的な危険が存在している.例えば,情操が未熟な子供が動物に触れようとすると動物に怪我やストレスを与えてしまう可能性が高い.そこで本研究では,VRを用いて動物の視覚を疑似的に体験することで,子供の動物に対する関心,共感性を高めることができると考えた.本事例では,情操教育の対象にする動物はウサギである.ウサギは視覚,聴覚ともに人間とは異なる知覚を持つ.本研究では,実際に小動物に触れ合う前にVRを用いてウサギの視覚を疑似的に体験することで,情操教育の過程で互いに傷つけあうリスクを低減させる効果があることを検証しようとするものである.
バーチャルリアリティ(VR)観光は,観光・旅行業界でICTの大きな革新が期待されると共に,地域創生にも寄与する重要な領域の1つである.一方で現状のVR観光において,高い臨場感で広範囲を移動して風景・自然を楽しむ体験の実現は,精緻で巨大な3Dポリゴン作成に高いコストが必要なこと,家庭に設置可能な簡易な装置で歩行感の再現が難しいことから課題となっていた.そこで本研究では,広範囲でも簡易に計測できる点群データを用いた視覚的な空間構築と,簡易な装置を通じた音声・振動による歩行感の提示により,課題を解決するアプローチを試みる.本報告では香川県の男木島を対象として同アプローチで構築したプロトタイプについて,データ収集方法,システム設計を述べ,少人数実験に基づく質的評価の結果について報告する.
本稿では,ユーザと自然言語を介して対話的にやり取りすることで,ユーザの「分からない漢字」の字形の情報を音声や画像によって提供し,その思い出しを支援する対話型筆記具デバイスを提案する.提案した筆記具デバイスを用いて,音声による語り掛けによって漢字の情報を提供する条件,デバイス上の液晶画面に正解の漢字を投影する条件,その両方を併用した条件を設けた実験から,システムの有用性の評価を行った.結果として,システムに対する親近感や思い出しの感覚については語り掛けを伴う条件で評価が高かった.特に語り掛けのみで情報提供をおこなう条件においては,自分の力で課題を遂行した感覚が高く,実験の事前・事後に実施した書き取り課題のスコアの変化が最も大きかった.これらの結果から,音声のみで情報提供を行う場合においては,指示内容への高い理解や支援の感覚を提供しつつ,ユーザの主体的な漢字の字形の想起を支援できる可能性が明らかになった.
近年,VR空間を活用した立体的な情報提示手法が多く見られるが,Webコンテンツの閲覧方法やWebコンテンツのデザインは平面を想定したものがほとんどである.本研究では,既存のWebコンテンツのマークアップ言語を応用しつつ,VR空間内にWebコンテンツを立体的に表示するWebブラウザアプリケーションを開発し,実験を通し既存の平面的なWebブラウザとの閲覧体験の差異について存在感の観点から比較・検討をおこなった.
本研究では,迷路を繰り返し遊ぶ場合のエンターテインメント性に着目し,迷路探索時間と参加者に対するアンケートを行った.迷路探索のエンターテインメント性を,迷路そのものの難しさと楽しさに加え,繰り返し迷路を遊んだ場合の楽しさの継続性とする.サイバー空間上に「固定巨大迷路」「固定みえないめいろ」「ランダム巨大迷路」「ランダムみえないめいろ」の迷路を4パターン用意し,比較を行った.その結果探索時間は長く,エンターテインメント性は高い評価を得られた迷路パターンは「ランダムみえないめいろ」であることが明らかとなった.またエンターテインメント性も高い評価を得られることが分かった.
コロナ禍において人と接する機会が減少した昨今,子どもたちがよりよく生きるためのライフスキルを身に付けることは身近な問題となっている.本研究では,ライフスキルのなかでも,玄関での靴の整頓を促す情報提示について検討する.天井に設置したカメラの映像から靴の姿勢を推定し,その結果に応じて靴を置くべき目標位置に誘導するガイドを画面に表示する.本システムを用いることで,靴の整頓を習慣化させやすくすることを目指す.
新型コロナウイルスの蔓延による生活様式の変化により,日常生活においてストレスを感じる機会が増えている.本研究では,マスクの温度変化の計測というユーザの呼吸を簡易な手法で計測することで,ユーザのストレスなどの内部状態の推定とインタラクションへの応用をめざす.ユーザに負担の少ない手法で呼吸を計測するために,室内での着用が恒常化しているマスクに着目し,呼吸の際のマスクの温度変化を計測することで,簡易的に呼吸を計測する手法を提案する.実験により,異なる種類のマスクを着用した場合でも,個人の呼吸の違いを計測できることが分かった.
布製品にインタラクティブな機能を搭載させるために,様々なスマートテキスタイル技術の研究が行われている.これまでの取り組みでは電極の形状を工夫することによってセンシングに対応した電気的特性を作り出しており,既存の衣服が持っているようなデザインの多様性をスマートテキスタイルでは実現できていない.そこで本研究では,導電糸の上に非導電糸で重ね縫いをすることで,タッチ時における静電容量変化を制御し,タッチ位置検出に利用する手法を提案する.非導電糸の密度を変化させることで,タッチ時における指と導電糸の距離が変化して静電容量変化をもたらす.この手法を利用することで,インタラクティブ刺繍を多様なデザインで実現することができる.
本研究では,人間と長期的な関係を構築し,一緒に仕事をするなどのより社会的な行動をする能力を持つエージェントの実現を目指している.円滑にエージェントと人がタスクを遂行するには,互いに相手の性格特性を把握しながら自身の思考や行動を変化させる必要がある.本研究では,人同士が協力ゲームをプレイし,プレイ内容やプレイ状況によって自分と相手の性格特性評価にどのような影響があるのか調査を行った.また,個性や行動が異なるエージェントを実装し,ユーザがエージェントに対してどのような印象を持ち,個人特性を感じるのか調査を行った.調査の結果,ゲーム結果,知り合い/初対面,対面/非対面,エージェントの性格,行動などの様々な要素で相手への個人特性評価だけではなく,自己評価も変化することが確認できた.
現在,多くの学校では,学校の鍵の管理者が各種施設の鍵をアナログ的に管理しているが,これはセキュリティ面において不十分であり,利用者の負荷も大きい.本研究では,問題解決のために,鍵の貸し出し,返却の状況をいかなる場所においても把握できるシステムとユーザ認証を行なわない限り物理的に鍵を取り出すことが不可能となるロック機構付きのケースの作成を行なった.結果として,本システムは学校が管理している鍵の不正利用防止に十分実用的であり,また利用者の負荷も削減することができたと結論付けられる.
グリッチとは,デジタルデータの破損による一時的な不具合を指す.しかし芸術の文脈では意図的に発生させるか,類似した視覚効果を後から付与することで,グリッチアートと呼ばれる表現手法としても確立されてきた.近年では,実世界の物体にグリッチが掛かったように見せる作品もある.しかしこれらは製作の度に新たに造形をする必要があり,またグリッチアートの一過性を成立させるには,正常な状態も鑑賞者に見せることが重要だと筆者らは考える.そこでプリズムシートに着目し,光の屈折を利用して物体の一部が水平方向にずれたように見せることで,実世界の任意の物体に動的なグリッチエフェクトを付与する装置を提案する.
For lots of people working in different fields, reports describing a variety of data facts are authored and analyzed by lots of people every day. To get insights efficiently from such kind of data-rich document, people naturally take notes by using visual marks such as highlights, underlines, and circles traditionally. Recently, as business reporting goes electronic gradually, there is a surge of attention and interest in effective support for such kind of report analysis with the power of computer science. In this paper, we design a visual-guided method focusing on facilitating business report authoring, especially, aiming to help build interactive business reports to convey data facts via the non-programming interface. The proposed method aims to simplify the authoring of interactive business reports, lower the technical barrier, as well as empower people to comprehend the key information effectively. A use case generated by our system based on real business reports is presented to show the usage and capability of the implemented architecture.
製造分野で組立作業中に作業内容を示す指示書をタブレット端末に表示し,その表示状況の進捗で作業状況を管理するシステムの導入が進んでいる.しかし,実際の作業をしながら,タッチによるタブレット操作を行うことは作業の妨げになるなど,いくつかの課題がある.また,作業が一通り終わってからまとめて操作され,チェック項目などの大事なページが読み飛ばされていることがある.そこで,非接触かつハンズフリーで作業の妨げにならずに操作ができ,指示書への注視時間を増加できる可能性がある,視線を用いた非接触による入力手法の提案を行う.本論ではシステムの提案と,システムの効果を検証する実験計画について述べる.
広く普及しているチューナーは現在の音程のみを可視化するため,練習曲の中で苦手とする箇所を把握することが難しい.また,演奏の本番ではチューナーではなく指揮者を見ながら演奏するため,チューナーを見ず,周囲で自身と異なる楽器や異なる音程の音が演奏されている中で,正しい音程の音を演奏できるように練習する必要がある.そこで本稿では,自身が演奏した音のずれの大きさを可視化することで練習曲の中で苦手とする箇所を把握でき,合奏の周囲音に自身が演奏するべき音を重ねた音を聞きながら練習を行うことで合奏練習の効率化を行うシステムを提案する.本研究では,このシステムの妥当性及び評価実験の手法を確立するために予備実験を行った.その結果,提案手法は従来手法に比べて半音以内に収まった音程のずれを改善する傾向がみられた.今後は予備実験の結果を踏まえて,評価実験を行う予定である.
地域活性プロジェクトでは,地域の現状を把握するためのフィールドワークがしばしば行われる.質の高いフィールドワークを行うためには,フィールドワーク中にデータを集める段階で効率よくかつ網羅的な内容を記録する必要がある.この記録は一般に現場メモと呼ばれ,フィールドワーク後にこの現場メモをもとに清書版フィールドノーツを作成し,それをフィールドワーク参加者間で共有することで地域の魅力を発掘していく.しかし,この現場メモを作成するにあたり多くの課題が存在する.本稿では,その課題の1つである網羅性の向上に着目し,フィールドワークにおける現場メモの作成を支援するシステムBlurtMemoを提案し,その有効性について検証した結果について報告する.
車と歩行者のコミュニケーションモダリティとして,多くの研究が「目」を提唱している.歩行者とアイコンタクトをとる場合,合理的かつ自動的に歩行者を見ることが重要な課題となる.しかし,複数の歩行者が車に接近している場合,どのように視線を制御すればよいかは自明ではない.本研究では,複数歩行者に対応した視線制御アルゴリズムを開発している.我々は,CEATEC2022において,提案手法を実装した実車プロトタイプでデモを行った.本稿では,我々の提案手法のアルゴリズムについて説明し,多くの来場者から頂いたフィードバックについて述べる.
本論文では,多様な人物像を持つAIとの対話を行う雑談対話システムを提案する.提案システムでは,ユーザは対話したい人物像を,年齢等のユーザ属性を選択することで定義することができる.そして,定義した人物像のAIと任意の話題で自由に対話を行うことができる.ユーザはその日の気分や用途によって自由に対話相手を設定でき,継続的に多様な雑談対話を行えるシステムとなっている.また,様々な人物像から特定の話題に対する意見を対話を通して取得する意見マイニングシステムとしても利用できる.多様な人物像に基づく対話を実現するために,本論文では,自動推定したユーザ属性を用いた事前学習モデルによる雑談対話システムを提案する.事前学習時にユーザ属性を付与して学習することで,幅広い対話知識をユーザ属性と関連付けて学習できる.これにより,多様な話題に対して,ユーザ属性に応じた対話を実現できる.評価実験では,従来のファインチューニングベースのモデルと比較して,ユーザ属性の効果がより高くなること,ユーザ属性により発話がより多様になることを示す.
本論文では,認知症の介護によるケアを困難にしているBPSDに対して,自分と同じ境遇の患者に対する助言をしてあげられる探索システムを構築した.実装はPythonのDashを用いて行い,チェックリストとして入力したBPSDの症状を,ユークリッド距離を用いて計算した.それを距離が近い順にソートをかけ,「助言内容,年齢,距離」を表として出力する実装を行った.結果としては,的確に症状に対しての助言を伝えられるシステムとしては上手くいった.しかし,使用できない文章が多く,整理が必要だと感じた.困っていること項目に対して,少しでも助言をしてあげられるように改良する必要があると考えている.
昨今,保育園や幼稚園の送迎バスにおいて幼児の車内に置き去り事故が問題となっている.乗務員に対する注意喚起だけでは限界があり,システムによる補助の必要性が議論されている.本研究では,そのような事故を減らすために,安価で高精度な置き去り対策支援システムの構築に取り組んでいる.その制作プロセスの初期段階として,入手が容易なセンサーを用いて人物検知の基本的動作の確認を行ったので報告する.
本研究では,ペンライトを活用した双方向情報伝達システムを用いることで,過去のコンサート録画映像を鑑賞する場合でも,実際のコンサートに参加しているような体験ができることを目指す.映像内の演者から現実の観客への働きかけと,現実の観客から映像への働きかけを組み合わせることで対話性を創出する.提案したシステムを用いた場合と用いなかった場合とでどのような違いがあるのかを検証した結果,提案したシステムを用いた場合の方が,臨場感・盛り上がり・没入感・満足感の4つの点で高い効果を得られた.一方で,演者のパフォーマンスや提案システムのペンライトの振りが何に反映されているかが分かりにくいといった意見も得られた.
2020年度より,新たに全国の小学校でプログラミング教育が必修化された.必修化の目的は,子どもに「プログラミング的思考」を身につけさせることと,コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験させながら,身近な生活でコンピュータが活用されていることに気づかせることである.しかしながら,このねらいを全て満たす既存のプログラミング教材は存在しない.そこで,本研究では,プログラミング教育必修化のねらいを達成できるプログラミング教材として,タブレット端末とタンジブルなユーザインタフェースである信号ブロックを用いた信号プログラミング教材を開発した.この教材では身近な生活に使われているコンピュータである信号機を題材とし,新たなビジュアルプログラミング言語として数直線タイプを実装した.
本研究では,スマートフォンを用いたタッチ操作のみで様々な種類の踊りの振付を記録・シミュレーション・再現することを目的とした振付作成システム3D Dance Composer for Smartphoneを開発した.本システムでは,モーションデータに含まれる1つの動作ごとにカットしたモーションクリップを組み合わせて振付を作成し,振付を3次元的に保存する.また,組み合わせたモーションクリップを編集することで所持していないモーションを生成し,手軽に振付の再現ができる.本稿では,3D Dance Composerで振付を作成する手法について述べる.さらに,本システムの有用性を検証するためにバレエのレッスン用の振付再現を試みた.
本研究では,崖を滑落中に壁にナイフなどを刺して停止する,というマンガ物理学的シーンにおける主に手と腕部における刺激を体験可能なMRシステムを提案する.身体を落下させる代わりに崖面を模したデバイスを上方に運動させ,刃の引っ込むナイフ型デバイスをその面に押し込み,相対的に体感を実現させる.ナイフを押し込む強さを圧力センサで取得して面の移動速度を制御し,ナイフの柄に付属するソレノイドにより崖の凹凸の変化を表現する.
音楽とは本来誰もが自由に表現し,それに触れることができる.演奏技術の習得は,楽曲のアレンジや,個性ある演奏ができた時に喜びを感じるものであり,洗練された技術や高い習熟度が垣間見えた時に美しさや凄みを感じる.しかし,その修練に至るまでの序盤の練習で指の短さや太さによる影響で諦める人が多いように感じる.Trace Synthesizerは,スポンジ状のインターフェースを使用し,その力の掛け方によって演奏し,先天的な身体の制約に囚われない新しい楽器である.本稿では,Trace Synthesizerの構成と専用の演奏板を用いて誰もが演奏できる仕組みについて考案する.
現在のホテルレビューサイトでマイナーだが評価の高い宿を探そうとすると,探したい宿以外も候補として多数上がってしまうことがあり,効率よく宿が探しにくい場合がある.本論文では,レビュー数が少なくマイナーではあるが,食事などの評価の高い宿を穴場ホテルとし,可視化しながら穴場ホテルを探索できるツールの構築を目指す.検索条件として,レビュー件数,レビュー評価項目,レビュー評価数値を用いたホテル探索ツールを作成した.結果ある程度目的とするマイナーで評価の高い宿泊施設を探し出せるツールの作成に成功した.
唾液は人体にとって重要な分泌液であり,唾液分泌量が低下すれば舌炎や口内炎などの口腔疾患のみならずさまざまな弊害が生じる.このような弊害への対処としては,唾液分泌の増加が望ましいが,唾液分泌量の減少は日常的に起こりうるため,常時唾液分泌量を増加させられる環境が必要である.そこで本論文では,においを出力し唾液分泌量増加を促すメガネ型ウェアラブルシステムを提案し,提案システムによる5秒間,10秒間,30秒間,60秒間のにおい噴射によって唾液分泌量が増加するかを確認した.実験の結果,10秒間と60秒間のにおい噴射は唾液分泌量を有意に増加させ,増加した唾液分泌量はそれぞれ約0.09 g,0.12 gであった.また,5秒間,10秒間,30秒間,60秒間のにおい噴射では,60秒間の噴射が最も唾液分泌を促した.
コロナ禍の影響により,世界全体で感染対策と人件費削減のため,実店舗における従業員の大幅な削減が進められた.日本においても例外ではなく,無人レジやキャッシュレス決済などの店舗のDXが大幅に進んだ.しかし,以前として大型店舗,小型店舗を問わず万引きは大きな問題となっており,従業員が削減されたことが,対策をより困難なものにしている.この研究では,すでに多数の店舗で導入されている商品に付けられるRFIDタグを用いて大まかな位置追跡を行えないか検証した.また,得られた位置情報を用いてどのような万引き防止策を行うことができるかを考察する.
本研究は,芝生濃淡を制御できる人工芝ピクセルを用いて,テキスト・アイコン・アニメーションを芝生上で表示できる形状変化人工芝ディスプレイを提案する.人工芝ディスプレイは,芝丈が固定されている黄色人工芝と芝丈を調整できる緑色人工芝で構成されており,緑色人工芝の芝丈の制御により緑色と黄色で成る芝生濃淡を変化させることができる.本研究では,8x8ピクセルの人工芝ディスプレイを開発し,デモンストレーションを通して,人工芝ディスプレイの表示能力を主観評価で確かめた.この技術は自然景観に馴染んだアプリケーションを提供するディスプレイ装置として応用可能である.
二重奏において,本番で伴奏者が演奏をミスすることによって生じる非常事態への対処をリハーサル段階で訓練するために,ミス伴奏を生成するシステムArteMissを開発した.ArteMissを用いて生成したミス伴奏を用いて,リハーサルを実施したところ,ミス伴奏に合わせてリハーサルを行った独奏者は,本番演奏で伴奏のミスに警戒するようになり,非常事態訓練として一定の効果がある可能性が示唆された.
本研究では,議論における発話の偏りに基づいて参加の均等化を促すエージェントシステムを提案する.音声入力から各発話者の累積の発話率を算出し,ホログラフィックエージェントを通じて働きかけを行う.提案システムによる介入によって,議論参加者および議論全体にどのような影響を及ぼすかを分析することを目的に評価実験を行った.実験の結果から,エージェントは発話率の順位が入れ替わるほどの影響は与えないが,発話の偏りは緩和されることが示された.さらに,コミュニケーション能力アンケートの結果と,発話率や働きかけの効果の大きさに関係がある可能性が示唆された.
イラスト模写を行う際,概形をとらえてから細部を描き込む方法が用いられている.この考え方を元にIarussiらは,入力画像のシルエット線を単純化したブロックインをはじめ,数種類のガイダンスを生成する手法と,模写向けのフィードバック機能を提案した.しかしこの手法は細部に対するガイダンスを行うことができず,細部の模写は未だに困難である.そこで本研究では,(1)メッシュベースのガイダンスを生成する手法と,(2)生成用のユーザインターフェースを提案する.具体的には,入力画像に対してユーザは矩形領域を指定し,その領域内にサンプリングされた点群(基準点)から三角形メッシュを生成するものである.指定領域の三角形メッシュをガイダンスとすることで,ユーザは全体的なバランスと細部の把握が容易となり,効率的かつ高品質な模写を実現する.
本稿ではハイブリッド・イメージの手法を用いた動画像を合成する実験に関して報告する.ハイブリッド・イメージとは,2つの違った静止画像を,近くで見た時は一方の画像に見え,遠くで見た時はもう一方の画像に見えるように合成した画像である.既存の研究ではハイブリッド・イメージの手法は静止画像にのみ適用されており,同手法による動画像合成に関する研究はほぼ未踏である.そのため,本研究では,ハイブリッド・イメージ手法を用いて「動画像と動画像」「動画像と静止画像」の2つの組み合わせにたいし,ハイブリッド・イメージ手法を適用した動画像合成を行ったのち,簡易なユーザ・スタディを予備実験として行った.結果として,ハイブリッド・イメージの性質は,同手法を用いて同画像を合成しても保たれることがわかった.さらに,動画像と静止画像の2つを元画像として合成した場合,合成動画内の動画像が見える距離が伸びるようであること,また,元動画が2つとも動画像の場合,どちらの動画像も認知できる距離が短くなるようであること,元動画像内の被写体の動きが早い場合より見えやすくなることなども,予備実験から示唆された.
本稿では即興演奏におけるリズムに着目し,即興演奏初心者が自力で多様なリズムを思いつけるようになることを目的としたシステムを提案する.本システムではシステムとユーザが掛け合いをし,システムはユーザが演奏した旋律のリズムのみを多様に変換した旋律を奏でる.この掛け合いの中で,ユーザのリズムの引き出しが増えることを目指す.
本研究では,スマートフォンが個人の所有する携帯端末であるという利用形態の特徴と端末の機能を活かした,「今そこにいるあなたへの情報である」という当事者意識を喚起する情報の提示内容や提示方法について検討する.提示内容としてはスマートフォンを使用するユーザの操作履歴の具体性を高める効果を,提示方法としては人型エージェントやその音声発話によって提供することが与える効果について検証した.提示内容と提示方法をそれぞれ3パターン検討し,それぞれを組み合わせた9種類の情報表現について比較検証実験を行った.実験の結果,提示方法については人型エージェントや音声情報を付与することで,提示内容については受け手のアプリの視聴履歴をテキストに含めることで当事者意識を高める傾向があることが示された.
本研究では,安価な熱溶解積層方式の3Dプリンタで造形可能な細かい毛の集合体(毛構造)を活用した毛構造の拡張について提案する.予備段階として,毛構造の密度や長さ等のパラメータを変更することで,先行研究の再現性を調査した.このパラメータ調査の結果を用いて,毛を使ったセンシングやアクチュエーションを行うために,導電性/磁性等を備えるフィラメントを造形に用いる方式や,柔軟に動かせるソフトレジンに毛を埋め込む方式の試作・提案をする.これらの方式によって特性が変化した毛構造を用いて触覚提示を行うための例についても紹介する.
小学校でプログラミング教育が必修化されたことから、プログラミング学習の低年齢化が進んでいる。先行研究では、未就学児でもプログラミングの基本処理が学べるシステムの提案、構築が行われた。しかし、構築システムを実証するにあたり、教育内容やユーザーエクスペリエンスなどの改良が必要であった。本稿では、実用化に向けてそれらを改良し、未就学児対象の実証実験を行った。その結果、未就学児の理解状況から本システムは、プログラミングの入り口となり得るシステムであることが確認できた。
鏡面や鏡の中にデジタル情報を提示する手法は多々提案されているが,表示領域は鏡像空間に制限されている.我々はデジタル情報を鏡像空間だけでなく実空間へも連続的に移動させることのできる超鏡空中像(MiTAi:Mirror-Transcending Aerial Imaging)のコンセプトを提案し,実世界におけるデジタル情報の新たな視聴体験の創出をめざしている.本稿では超鏡空中像の特徴である「空中像が鏡面を超える視聴体験」をソフトウェアによって自動制御できるシステムの実装について,光学系,制御系,アプリケーション,パラメータ設計の観点から概要を述べ,実装したプロトタイプの動作をまとめる.
物理現象や材料特性を活用したデバイスの研究が盛んに行われているが,これらの多くは入力位置と出力位置が一致しているものが多く,離れた位置でのインタラクションや表現を実現していない.この課題を解決するため,振り子の共振特性に注目し,ユーザーから離れた位置で複数の出力を繰り返し選択的に動作させるような空間に展開可能なシステム,Pendulum Resonatorを提案する.さらに出力部で使用する機構として,力を瞬発的に複数回加えることが出来る振り子の運動特性と磁力を用いることで,電流や,回転運動を生み出す機構を提案し,ユーザーの周りの空間を演出する応用的な表現例を紹介する.
時差ボケの対策として,「現地の時刻(明暗サイクル)に合わせるように,生活リズムを調節する」という方法がある.これまで,時差を考慮した生活を支援するアプリケーションが配信されてきたが,情報の提示は画面上のみに留まり,ユーザがその都度画面を確認する必要がある.そこで本研究では,日常の中で遠隔地の状況を伝えるデバイスの研究を参考にしながら,日常の中で時差に関する情報を提示できるシステムを検討する.その上で,地球上における位置の把握に優れた地球儀をインタフェースとして採用し,地球儀を回転させて任意に地点を指定する操作に対して,その地点の太陽による明暗サイクルを生活の指標として提示する,地球儀型のIoT照明デバイスを提案する.
モーションキャプチャ技術によりCGをコントロールすることで運動感覚を提示することは,VR技術において一般的に行われている.本研究では,CGを使わずに運動感覚提示を行う方法について提案する.具体的には,モーションキャプチャされた身体運動を元に,アレイ状に配列されたLEDの発光を制御する.LEDはドーム状のオブジェクトの内部にあり,オブジェクトの影を壁面に投影し,影の動きによって身体感覚を提示するシステムを試作した.