プログラミングの課題を一人で行うプログラミング演習授業において,孤独な学習になりがちな傾向にある.このような問題に対して,ティーチングアシスタント(TA)が声を掛けることで,学生の孤独感を軽減できる可能性がある.そこで本研究では,TAの机間指導における声掛けを支援するシステムの提案を行う.このシステムは,学生の出席率,宿題提出率,確認問題,孤独感のアンケートのデータを用い,声かけする順番を決定する.その後,声を掛けるべき学生の自動提示を行い,どの学生に声をかけるべきか明示する.更に,声掛けのシナリオをランダムに提示し,どのように声をかけるべきかヒントを与える.理工系大学の学部1年生を対象としたプログラミング演習の授業で導入した結果,システムによってTAの学生に対する声掛けが促進され,それにより学生の孤独感が軽減した可能性が示唆された.
ロボットの頭部姿勢において,直立したロボットに比べ,首を傾げたロボットの方が「かわいい」と知覚されることが示されている.そこで本研究では,首の傾げ動作速度,および首傾げ動作に付随する動作が「かわいい」の知覚に与える影響を検証した.具体的には,WEBアンケートを用いて,ロボットが2s,1s,0.5s,0.1sで左右に15°首を傾げる動画を参加者に提示し,「かわいい」と感じる度合いの比較を行った.同様に,首を傾げると同時に左側の手,右側の手,両手を頬部分に当てるように動作させた動画について,「かわいい」と感じる度合いの比較を行った.実験の結果,0.5s~1sで右に首を傾げると,もっとも「かわいい」に対する評価が高く,さらに,両手を頬部分に当てるように動作させると,より「かわいい」と感じられることが示された.
バーチャルリアリティ(VR)技術の広がりにより,バーチャルライブと呼ばれる,VR空間上で行われるイベントが開催されるようになった.ここでは,観客はVR空間上にアバタとして参加し,その空間において同様にアバタとして参加する出演者による催し(例えば音楽ライブ)を楽しむことができる.このようなバーチャルライブ環境では,現実世界では実現し難いビジュアルエフェクトを表現することができ,新しいライブの楽しみ方として普及が期待されている.しかし,現在のバーチャルライブ環境の中には臨場感に欠ける問題を含むものがある.この問題は他の観客の動きが十分に反映されず,画一的なものになっていることで引き起こされている可能性がある.本研究では,バーチャルライブ環境における臨場感に対して観客同士の動きのインタラクションがどのように影響するのか調査する.バーチャルライブを模した環境において研究室実験を行った結果,観客同士の動きのインタラクションが臨場感に影響を与えることが示唆された.
本研究は,早押しクイズに勝つための人工知能(AI)システムの開発が目的である.近年のクイズ人気に伴い,早押しクイズAIも需要が高まっていると考える.クイズをAIに解かせるという試みは以前より盛んにおこなわれているが,早押しという点においては未だ人間のクイズプレイヤーには及ばない部分も多い.本研究では,序盤で答えがいくつかの確実な選択肢(解候補)に絞られる問題において,その解候補から妥当性を考慮して正解を推定することを試みる.早押しクイズの作問の際に意識される解の妥当性に着目し,問題文の前半で得られた解候補を,妥当性を構成する各要素に分類・評価することで,問題文の後半を聞くことなく正解を導き出すことができると期待する.
人の表情は他者とコミュニケーションを図るうえで重要な社会的信号である.しかし,日常生活において自分の表情を見る機会は少なく,普段自分がどのように笑い,怒り,驚き,泣くのかを認知している人は少ない.本研究では,自分自身の表情を認知する機会を作ることを目的とし,表情に現れる情動情報を水面の波紋で可視化するインタラクティブアートを構築する.体験者が水面を覗き込むと,自身の顔が反射して映り,喜び・悲しみの表情を作るとそれに応じて異なるパターンの波紋が生成される.波紋と自分の顔を一緒に見ることによって,体験者は自身の表情と向き合い,波紋の違いによって自身の表情を認知することができる体験の創出を目指す.
人は複数名に情報説明をする際には,話を聞かせるべき人物が誰であるのかを意識して説明を行っている.例えば,重要人物とその随伴者がいる場合には,重要人物により話を聞かせるべきという情報提供の優先度に配慮して情報説明する.本研究では,このような複数名への情報提供に際して生じる情報提供の優先度に着目し,関わり合う人々の情報提供優先度に配慮して情報提供をする対話ロボットシステム実現を目指している.本稿では,人々の情報提供優先度に応じてロボットの立ち位置と移動経路を算出するシミュレーションシステムについて報告する.
グループ学習における議論のような場面では,学習者全員が自分の意見を持ち発言することが望ましい.しかし,議論の場において発言が一部の学習者に偏るという問題がある.本研究は,議論の場において発言が少ない消極的発話者の発言率を向上させることを支援する.このために音声による個別指示システムを提案する.評価実験として,1グループ4人の計3グループを対象として支援無し議論と支援有り議論の計2回の議論を行った.音声による個別指示を行うことで,支援無し議論において最も発言の少なかった学習者の発言率を向上させることができた.この結果から,学習者全員の意見が反映された議論展開へと繋がった可能性が示唆された.また,支援直後の消極的発話者の発言率の順位について,支援無し議論と比較して支援有り議論において,発言率の順位が一時的に向上することが分かった.このことから,個別指示支援が学習者の発言意識に影響を与えている可能性が考えられた.
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)が安価になり,多くの人がVR環境を楽しめるようになってきた.しかし,HMD独特の閉塞感や自分の視点との位置情報のずれ,コンテンツの解像度などの要因でVR酔いと呼ばれる症状が生じてしまうことも報告されている.本研究では,HMDを用いたVR環境において,ユーザが操作するアバタの視点の違いが酔いに与える影響について検討する.具体的にはユーザが操作するアバタの視点を変更可能なVRゲームを題材に研究室実験を実施する.実験には13人が参加しそれぞれが一人称視点と三人称視点でゲームをプレイする.このときSSQおよびMISCによってVR酔いの程度について主観的な報告をしてもらう.実験の結果,SSQの評価においては視点の違いが酔いに有意に影響を与えることは確認されなかった.しかし,MISCの評価からは三人称視点が酔いの程度を抑える可能性が示唆された.また,参加者の主観的報告から,ユーザのこれまで経験によって酔いの程度が異なることが明らかになった.
人はたくさんの音の中から重要と感じた音のみを選択し注意を向けるため,無意識に音を聞き逃してしまう.我々は,この課題に対して,無意識に聞き逃してしまった音に気付かせ,聞き返すことができる聴覚拡張ヒアラブルデバイスを提案している.近年,ユーザにとって価値のある実用最小限のプロダクト(MVP)を短期間で開発し,仮説検証を繰り返していくアジャイル開発が注目されている.我々が提案する聴覚拡張ヒアラブルデバイスでは,人の聴覚・認知機能を拡張し日常生活へ溶け込むことを目指し,アジャイル開発のプロセスにより仮説検証を繰り返すことでユーザの体験価値を高めている.本稿では,提案する聴覚拡張ヒアラブルデバイスについて,アイディエーション,フォーカスグループインタビューなど被験者実験を通して潜在的なニーズから利用シーンと機能を決定し,プロトタイプに対する要望・課題抽出を行ったので報告する.
近年,新型コロナウィルスの世界的な感染拡大と移動の制限を背景としたEC(E-Commerce)需要の増加とともに,アパレル産業においてはAIを用いたサイズ採寸技術,AR技術やアバター技術を活用したバーチャル試着(VTO)が注目を集めている.本研究では,3Dアバターを活用したVTOにおいて,試着体験に活用する3Dアバターの種別の違いと生活者の体験受容性の関係の評価を目的として,3Dアバターを活用したVTOシステムのプロトタイプ開発を行い,プロトタイプを活用した評価実験を実施した.結果,フォトリアルアバターは最も自分自身だと実感しやすく,VTOの体験満足度も高い傾向が見られた.また,男性10-20代は,パラメトリックアバターであっても自分自身だと実感する傾向にあり,VTOの体験でも満足度に高い傾向が見られた.VTOのターゲットによっては,本人を高精度に再現した3Dアバター以外でもVTOの体験価値が担保される可能性も示唆された.
インタラクティブ作品には恥ずかしさで作品への参加を躊躇する人が存在し,インタラクティブ作品がより多くの参加者を獲得する機会を失っている.そこで,本研究では,インタラクティブ作品の制作時に参考にできる恥ずかしさに関するガイドラインを作成することを目的に,インタラクティブ作品における恥ずかしさの要因調査を行った.具体的には,インタラクティブ作品に対して感じた恥ずかしさの状況の収集とそれらの状況が恥ずかしさに与える影響を測定する質問紙調査を行い,回答を統計的に分析した.その結果,インタラクティブ作品における恥ずかしさの要因が,視線感知,自己乖離,心細さであることを明らかにした.また,これらの要因を整理した作品制作ガイドラインを作成した.
近年のコロナ禍において,大学などの教育機関ではビデオチャットツールを用いたオンライン講義が行われている.講義にはグループワーク(以下,GW)を中心としたものもあり,この類の講義もオンライン上で行われる.しかし,オンラインGWでは,議論が上手く進行ができない,メンバーが議論に参加しているかわからない等のさまざまな問題が発生し,対面GWと比較すると満足のいかない場合が多く,この理由のひとつは,カメラ機能利用の有無によるものであると考える.そこで本研究では,オンラインGWにおいて,カメラ機能のオン・オフが議論の進行にどのような影響を与えているのかを調査するために,対面GW,オンライン・カメラ機能ありGW,オンライン・カメラ機能なしGWの3つの条件の会議中のデータを収録し,会話の沈黙に焦点をあて分析する.
私たちは日常の中でデジタル入力機器を操作する際,自分の入力動作とそれに付随する入力機器の動きの対応関係を経験から無意識に理解している.しかし,入力機器を手の中で持ったり動かしたりしながら目線を操作対象に向けている操作者は,機器の動き自体や動きの対応関係を意識しづらい.本研究ではふだん意識しにくい自分の入力動作と機器の動きの対応関係を非接触で機器を動かすことにより視覚的に客観視することを試み,その具体的な手法として,ゲームコントローラー型デバイスを非接触で連動させることで体験者の入力動作を可視化するシステム“Ctrl + You”を提案する.本稿では“Ctrl + You”の提案および実装について述べる.
CGキャラクタやロボットなどを操作して,遠隔地でサービス提供を行う遠隔操作システムでは,遠隔地で対話する相手の顔を映した映像に加えて,操作アバタを含む複数の環境映像を利用した対話が行われることが多い.こうした対話は,遠隔地で動作する自身のアバタと対話相手とのインタラクションを三人称視点で眺めながら行われる.本研究では,遠隔地のディスプレイに表示された遠隔操作アバタへ対話相手が触れる場面に着目し,遠隔地アバタが触れられた際に,その操作者へ触られたという感覚(被接触感)が生じるのか,について実験調査した.結果,遠隔地での接触動作を可視化することで操作者の被接触感が高まることが明らかになった.また,被接触感はアバタの操作視点にかかわらず生じることを示唆する結果が得られた.
クローラクレーン等の不整地作業機械では、転倒・過挙動等を未然に防止するため、機械の操作者への安全情報の伝達が重要である。本研究では、操作室前方正面に情報提示するヘッドアップディスプレイ(HUD)により、安全情報を視覚提示するシステムを検討する。Unityを用いて構築されたクレーン作業シミュレータのVR空間内にHUDを構築する。同シミュレータで荷役作業シミュレーションを行い、操作者の精神的負担、視覚的注意の配分、快適性を評価するための視線計測機能をシミュレータに実装した。
インターネットの広がりにより国をまたがって商品を購入する越境ECが増えている.ECサイトのデザインがユーザの購買意欲等に影響を与えることがわかっており,それぞれの国におけるサイトデザインの特徴を明らかにし,サイトデザインをするにあたって想定する顧客の国で一般的に用いられるデザインを考慮したカスタマイズを行うことは有効であろう.本稿では,日本と中国のECサイトデザインをできる限り定量的に比較することを目的とし,用いられている色やその面積,サイトのレイアウト,商品画像のサイズ等に関する調査を行った.色については,中国では日本と比較したときに暖色系が約2倍で寒色系が約6割であることや,レイアウトで用いられるカラム数,平均的な商品画像のサイズなども違いがあることがわかった.それぞれの国のサイトを見るときのユーザの視線の動きについても調査をし,たとえば商品画像を見る際にどの部分の説明を読むかなどの違いも出た.今後,これらを考慮したデザインツールの開発等を検討中である.
我々は,アニメのキャラクターに合った声の生成方法を研究している.これまでに,アニメのキャラクターの画像特徴から既存の声を推定する方法を提案したが,良い結果は得られなかった.そこで,キャラクターに合った声の特徴と画像の特徴を関連付けるために,人が聞く際に,キャラクターにとって違和感のない声の傾向を分析した.手法として,1つのキャラクタイラストに対して複数の音声を提示し,参加者によって評価を行い,人間の知覚がアニメキャラクターの声の特徴を知覚する傾向を分析した.本研究では,分析したキャラクタの特徴をベースに,音声データを学習し,キャラクターに合った音声を生成する方法について報告する
ロボットから人への能動的な接触は,人々に様々なメリットをもたらすことが報告されている.そこで本研究では,高齢者のメンタルサポートを目的として開発された赤ちゃん型対話ロボット,「かまって『ひろちゃん』」を改良し,能動的な接触が可能な「さわって『ひろちゃん』」を開発した.具体的には,胴体部分にモータを内蔵し,腕部分を開閉できるように改良した.利用者はひろちゃんを赤ちゃんのようにわきの下を支えて対話を行うため,「さわって『ひろちゃん』」の腕部分が閉じることで,利用者の親指部分を包むように触れることが可能となる.本研究では予備的調査として,「さわって『ひろちゃん』」による能動的な接触を通じて利用者により強い感情表現を行うことが出来るかを,非高齢者の被験者を対象に検証した.実験の結果,笑ったり泣いたりした際の感情の強さが,能動的な接触によって増加することが示された.
近年, 3Dモデルベース手法の視線計測システムでは眼球の光軸をユーザキャリブレーションを行わずに推定可能である. 3Dモデルベースの視線計測システムでのユーザキャリブレーションは眼球の光軸と視軸(視線)の差であるカッパ角を推定しており,このカッパ角をインプリシット(暗黙的)に求めることができれば,ユーザに意図的注視を求めることなく視線計測を開始できるようになる.本論文では眼球の光軸周辺の顕著性マップを用いたインプリシットキャリブレーション手法を改良し,少ないフレーム数の顕著性マップを使ってキャリブレーションを達成する手法を提案する.光軸の運動から眼球運動の種類を識別しキャリブレーションに有効なフレームの顕著性マップだけをカッパ角の推定に用いることで,視線推定精度を維持したまま,インプリシットキャリブレーションにかかる計算コストを削減することができた.
ゴミの焼却処分時の化石燃料の無駄遣いを避けるためにも,ゴミの適切な分別が重要とされている.例えば飲料物について,プラスチックのような再生可能な資源を適切に分別できない場合,エネルギーが無駄に消費されてしまうと考えられる.このような,ゴミの適切な分別の重要性がある中でも,適切な分別を行わないユーザは少なからず存在する.投函されたゴミについて,適切な分別を行うために回収作業員が一つ一つ手作業で行うことがあるが,これにかかる人的コストは高い.このため,ゴミ箱内に投函されたゴミを,自動で推定したうえで適切に分別を行うようなスマートゴミ箱の受容が高まっている.このスマートゴミ箱の実現に向けてゴミを自動で分別する研究が数多く行われているが,これらの研究では,ゴミを捨てる前に一度ゴミを叩くなど,直接ゴミの投函とは関係のない動作を行う必要がある.以上より我々は,ゴミを投函するだけで,投函されたゴミの識別を行う手法を提案する.これは,ゴミがゴミ箱へ投函された際に発生する音を元に,そのゴミ種を推定するというものである.本稿では,ビン,缶,ペットボトルに着目し,これらを投函した際の識別する手法の実装方法について論じる.