私たちは生活の中で,時折ものが一個だけ残っている光景を目にする.各地で知られるこの一個残しの事象はかかわる人が不要な遠慮や疑念を抱くことがある.本稿ではこうした点から一個残しの状況を回避するための空間充填・縮小手法を提案する.具体的には,空間内にあらたにものを追加することで一個残しの存在感を抑える空間充填型と,置かれた空間自体が狭まることで一個残しの形跡を薄める空間縮小型とに大別される.またこの事象が発生しやすい空間をプライベートおよびパブリックな空間と定義し,両空間で異なるシステム実装を行う.
我々は,SFプロトタイピングの新規事業創出への活用を進めている.SFプロトタイピングは,サイエンス・フィクションを用いてまだ実現していないビジョンを作成することにより,他者と未来像を議論・共有するための手法である.本稿では,SFプロトタイピング手法の一例を参考に,実験として全4回のワークショップを実施し,その効果と課題を考察した.まず,参加者の興味・専門領域からグループを作成し,そこにファシリテーター・SF作家を1名ずつ加え3つのグループを作成した.次に,参加者一人ひとりが短編SF小説を執筆し,各グループ1つの小説を元にバックキャスティングを行った.最後に,手法の効果と課題を抽出するため,参加者を対象にアンケートとヒアリングを実施した.結果,「思弁や思索を促す」,「共有・理解・共感を促す」,「コミュニケーションにおける制約事項を取り除く」というSFプロトタイピングとして言及されている効果が確認できた.一方で,小説執筆における慣れや世界観を構築するための支援が必要なことも確認できた.
本研究では,作業者同士の相互監視を含めたコミュニケーションに着目し,意図しない休憩を抑制するための作業に対する取り組み意欲の持続を支援することを目的としている.具体的には,意図しない休憩へと発展しやすい要因の一つである「作業に対する疲労や飽き」を感じにくくさせるために,他の作業者との(1)作業の進捗状況の共有機能,(2)会話・声援の授受機能,による作業の持続及び休憩からの復帰への影響を,1人で取り組む場合,他の実験参加者へ声援を相互に授受する場合,声援を含まない雑談をする場合の3条件において調査した.実験の結果,他者との情報共有及びコミュニケーションにより,作業者の取り組み意欲に対し持続させる効果を持つことを確認した.特に,声援を含まない雑談をする場合では,他の2条件に比べて作業に対する印象が好意的であったことを確認した.また,他の実験参加者へ声援を相互に授受する場合では,作業へ意識を戻すことに有効であることを確認した.
歯ごたえや食感といった感覚情報は,豊かな食事体験に欠かせない.この感覚は主に顎を動かす咀嚼筋と,歯の根本にある歯根膜からの触覚情報に基づき生成されている.両者のうち咀嚼筋からの情報についての調査や,またそれを利用したインタフェースは数多く提案されてきたが,歯根膜に関する知見は決して多くはない.歯根膜からの触覚情報は,それが遮断されることで咀嚼機能の低下が指摘されるなど,咀嚼へ大きく影響する情報源である.本研究では,咀嚼行動と歯根膜からの触覚情報との関係性の詳細,さらには歯根膜からの触覚情報の歯ごたえへの関わりについて解明することを目指し,歯根膜を直接外部より刺激することで感覚を生起させ,生起された感覚の内容また咀嚼への影響を調査することを狙う.本報告ではそのための予備調査を実施する.具体的には歯根膜に対する電気刺激装置を試作し,それによって引き起こされる感覚について検証を行った.
メイクアップは魅力的な自分に近づくことでストレスを軽減するなどの心理的側面な効果がある.そのため,多くの人はメイクアップの上達を目指している.その一方で,メイクアップ技術の中でも自身の眉メイクに自信がない人が多いといわれている.本研究では,理想の眉の画像をユーザの眉上に表示しトレースすることで,眉メイクの形状理解を促すシステム開発を目指している.本稿では,眉画像の有無による化粧した眉の位置,形状,メイク時間について調査した.その結果,トレースすることで化粧眉の位置を正確に書くことができた.また,眉メイクを行う時間が短縮することを確認した.
公共の場に大型ディスプレイやプロジェクターなどの映像表示装置を設置し,広告やニュース,株価などの情報を発信するデジタルサイネージが普及してきた.しかしながら,ディスプレイ上で画像を切り替えたり動画を流し続けたりするなど,一方的な情報の提示が主となっている.また,大規模なデジタルサイネージと比べると,小規模なデジタルサイネージは費用対効果が小さい.このような問題に対処するため,ユーザの位置計測に基づいた自然なインタラクション遷移を実現するデジタルサイネージシステムを提案する.提案システムの特徴は2つある.1つ目は,スクリーンとユーザとの距離に応じて情報提示方法を4つのフェーズに分けることにより,ユーザとシステムの暗黙的なインタラクションから明示的なインタラクションへの遷移を実現することである.ユーザとシステムのインタラクションを可能にすることで,一方的な情報提示という従来システムの問題を解決する.2つ目は,特別な装置を必要とせず,iPhone,iPadとプロジェクターを用いるだけでシステムを構成することができることである.これにより,システム全体のコストを抑えることが可能になる.本システムのプロタイプを試作し,有効性を確認した.
本研究は,共食会話で起こる話題変化の分析を行う.分析に使用する記録データは,和食文化の体験分析を目的として収録された料亭での共食体験を記録したデータを使用する.共食体験を行っている人の状況に応じて,話題変化や発話量の偏りが見られると考え会話の分析を行う.共食体験を行う際には2人1ペアで行っており,その中にはペア同士の人間関係であったり,参加者当人の経験など様々な属性を持った参加者が多い.このようにペア同士の人間関係などの属性の影響による話題変化に着目し,共食中の会話を分析する.
日常的に自身の感情を認識することはメンタルヘルスの維持・改善につながる.経験サンプリング法を用いることで日常の感情を評価することができる.これまでの経験サンプリング法による測定は回答者の負担が大きいことが指摘されており,より簡易的な方法の提案が必要になる.そこで本研究では,世界中で常用されている絵文字に注目した経験サンプリング法を提案し,その有用性を検討する.具体的には,提案法と従来の感情測定法を用いて日常の感情変動測定を14日間実施し,各方法の回答傾向を比較した.その結果,提案法が従来法に比べて回答率が高く,入力時間が短くなることが明らかとなった.本研究で提案した絵文字による経験サンプリング法が日常の感情変動を測定する方法として有用である可能性が示された.
クローラクレーンなどの不整地作業機械は、事故発生時の被害が大きいため、転倒・過挙動等を未然に防止することが求められる。本研究では、荷役作業時を対象に、発生頻度が高いつり荷の過挙動に対して、AIによる危険回避操作支援を行うシステムを検討する。Unityを用いて構築されたクローラクレーンの作業シミュレータ上で、過挙動低減を報酬として深層強化学習サイクルを実行する。得られた制御モデルを用いて操作支援システムを構築する。システムの有用性は、VRを用いたクレーン荷役作業シミュレーションにより評価される。
褒める行為は,コミュニケーションにおいて重要な要素である.しかし,相手を上手く褒めるためには,どのように振舞うとよいのか明らかにされていない.この問題に鑑み,これまで我々は対面対話において上手く褒めるために重要な振舞いを明らかにしてきた.本稿では,近年重要性が増す遠隔対話に着目し,上手く褒めるために重要な振舞いを分析する.具体的には,話者(褒める人・褒められる人)の言語・非言語行動から褒め方の上手さの評価値を推定する機械学習モデルを構築し,上手く褒めるための言語・非言語行動を分析する.これより,遠隔対話における褒め方の上手さを推定できることか確認でき,褒める人の視覚的,韻律的特徴量と褒められる人の韻律的特徴量が重要であることが示唆された.
労働力の偏在を解決するために分身ロボット(Avatar)の社会実装が期待されている.労働とは作業だけが必要な業態から,人とのコミュニケーションを必要とする業態まで幅広い.人は作業とコミュニケーションの両立が可能であるが,これを実現する人型の遠隔操作ロボットは現時点では複雑・高価である.本論文では作業とコミュニケーションの両立が可能であり,かつ,低価格な提供を目指した”Augmented Avatar”を提案するとともに,2021年9月フロリダで開催された準決勝を日本チームで唯一勝ち抜きXPRIZE/AVATAR Finalistに選出されたシステムを紹介する.
労働力の偏在を解決するために分身ロボット(Avatar)の社会実装が期待されている.我々は低価格ながら作業と人とのコミュニケーションを可能とするAugmented Avatarを提案している.誰もが簡単に操作できる操作インターフェースとして台車とアームの移動をワンクリック操作できるAugmented Avatar弐号機を試作した.本試作機で2022年11月にロサンゼルスで開催されたXPRIZE/AVATAR決勝戦に参戦した.我々のチームLAST MILEは参加820チーム中,世界12位,日本最高位を獲得した.
個人が特定の自由を侵害されたときに喚起される,自由回復を志向した動機的状態は心理的リアクタンスと呼ばれている.本稿では,心理的リアクタンスの反発力を活用し,先延ばし行動をする人たちに対して,自由を規制する教示を行うことで,先延ばし行動を改善させる手段の実現に向けた基礎的な調査を行なった.実験の結果,あまり関係が無いはずの第三者からの心理的リアクタンス教示によって,先延ばし行動を抑制するポジティブな効果が得られる可能性が示唆された.
ロボットは人を傷つけてはならない,とロボット三原則で述べられている.では,人を守るために暴力をふるう人を傷つけること,いわゆる緊急救助は認められるのであろうか?本稿では,ロボットによる防衛行動に対する心理的受容性に関する調査を行うべく,攻撃者から被攻撃者を守るために防衛者が防衛的攻撃動作を行う動画を複数作成し,WEBサーベイを通じて印象評価実験を行った.具体的には,攻撃者・防衛者の見た目,および攻撃・防衛時の振る舞いを変化させた8つの動画を作成した.304人の実験参加者によるビデオ評価を行い,有効回答数299人のデータを分析した結果,ロボットの防衛的攻撃動作が心理的に受容されうる状況が存在しうることが示された.
絵文字はテキストコミュニケーションにおける感情伝達を補助する非言語情報として広く利用されている.その絵文字を利用者自身で編集することで,より多様な感情表現を実現する方法も研究されているが,従来システムでは絵文字全体の大きさや動きのみ編集可能である.本研究では,感情の強さの認識において重要な働きをすると示唆されている涙やハートといった絵文字の付属パーツに着目し,それらをユーザの感情に応じて即時編集することで,メッセージ送信時の細やかなニュアンスを反映した豊かな感情表現を可能とするシステムを開発している.本報告では,絵文字のパーツカスタマイズ性およびカスタマイズするための入力方法として,スライダを用いたプロトタイプを制作し,感情を反映するように絵文字を編集できる可能性を検証した.
複数のエージェントやロボットを用いたインタラクション設計において,人とエージェントが直接対話するインタラクションと同様に,エージェントが対話する様子を人に観察してもらうことで情報を提供する間接的なインタラクションの有効性が示されつつある.しかし,ロボットのような物理的なエージェントのインタラクションにおける,触れ合い動作のデザインはあまり着目されていない.同じ動作であってもその動作速度が異なることで,人が感じるロボットの関係性は変化するであろう.そこで本研究では,ロボットの接触における動作速度の効果に着目した.ロボットの動作速度が印象に及ぼす影響について,Webアンケート実験を実施した.実験では,ロボットの接触が「軽く叩く(友好的な接触)」または「平手打ち(攻撃的な接触)」と捉えられる2つのピーク速度が示された.ロボットの運動速度に関する知見は,ロボットの物理的インタラクションの設計に貢献すると考えられる.
本研究では,遠く離れた親族,特に祖父母との社会的つながりを強めるための取り組みとして,児童が自分の分身ロボットを制作し,それを親族に送る「私の分身ひろちゃんワークショップ」を提案する.実際に学童保育施設に通う小学校低学年の生徒に対してワークショップを行った結果,保護者や参加した生徒からはポジティブな反応が見られた.ロボットを送られた親族に対する調査など,ワークショップがもたらす効果検討についての今後の計画についても述べる.
VR(Virtual Reality)向けHMD (Head Mounted Display)は,立ちながら,あるいは座りながらのだけでなく,寝ながら使用することが可能である.寝ている姿勢でVRHMDを利用することができれば,障がい等で寝たきりの生活を送る人が快適にVRコンテンツを触れられるようになるだけでなく,VRHMDをスマートフォンのようにどのような姿勢でも使用できる身近なデバイスへと進化させる.VR用インタラクション手法として期待されている中に視線入力がある.既存のVR向けインタラクション手法は寝ながらの使用を想定して設計されているわけではないが,視線入力には頭を動かす必要や手を動かす必要がないことにも特徴があり,寝ながらの使用に適している可能性がある.そこで本研究では,VRHMDに搭載されたアイトラッカーを用いて行う視線入力手法に対し,ユーザの姿勢が与える影響についての調査を行った.その結果,VRHMDでの視線入力手法は,座った状態と比較して寝ながら使用した場合,そのパフォーマンスは同等あるいは優れていることを確認することができた.
本研究では,組み合わせることで様々な応用が可能になる伸び縮みするピン型構造に着目し,シンプルな自己完結型ピン型デバイスを提案する.伸び縮みするピンは複数組み合わせることでピンアレイ式のディスプレイを構成することが可能であるが,従来のピンアレイディスプレイではピンを自由に再配置することは困難であった.そこで本研究では,独立動作する自由に再配置可能なピンアレイ型ディスプレイを提案し,その実装案およびアプリケーション案について述べる.