移動経路における坂道や階段の有無といった路面情報は,身体障害者にとって重要な情報であり,これらが記されたバリアフリーマップは近年普及しつつある.このような路面情報の収集には労力がかかるため,先行研究ではセンサを搭載した靴を用いた自動収集が試みられている.しかし,これらのシステムは普及しておらず,その大きな理由の一つにバッテリをこまめに充電しなければならないことが挙げられる.そこで本研究では,振動発電モジュールが内蔵された靴を用いて,着地時の衝撃で発電して得られた発電情報に基づき路面種別を推定し,推定結果を収集するシステムを提案する.提案システムの路面種別推定精度を評価した結果,自分自身のデータを学習データに用いて機械学習モデルを構築した場合にはバリアフリーマップ作成に必要な8種類の路面を約63%の精度で推定できた.
ラウドソーシングを活用することでバリア情報を低コストで収集できる.しかし,この手法は現地まで足を運ぶことが可能な空き時間を持った,高いモチベーションの人がいることが前提となる.我々は,多様な空き時間とモチベーションの人に対応したバリア情報収集プラットフォームを提案している.このプラットフォームでは,実地調査とセンサーデータ分析の2つの手法を組み合わせてバリア情報を収集する.本論文では,クラウドソーシング形式で実地調査とセンサーデータ計測を行い,ゲーム要素の有無が参加度合いに与える影響を調査するための8週間の実験を実施した.実験の結果,実地調査,センサーデータ計測の両方において,参加度合いを質的にも量的にも向上させることが確認された.
ある対象を自分の体の一部であるかのように感じる感覚は身体所有感と呼ばれており,コンピューターゲームのキャラクターのような自分で操作するCG映像に対しても身体所有感が生じることが知られている.本研究ではゲームキャラクターの属性,特に向社会性が身体所有感に与える影響を実験によって検討した.実験参加者はゲーム内で向社会的行動をおこなうヒーロー群と,反社会的行動をおこなうヴィラン群に分けられた.身体所有感の強さは操作したキャラクターが傷つけられる嫌悪刺激を見たときの皮膚電気反応の増加率を指標とした.実験の結果,嫌悪刺激後の皮膚電気反応の増加率はヒーロー群よりもヴィラン群のほうが小さく,ヴィラン群のほうがキャラクターに対する身体所有感の転移が抑制されていたことが示された.この結果はヴィラン群のゲーム内での行動が参加者自身の道徳的価値観に反する行動であったため,キャラクターへの共感が阻害された結果と考えられる.
昨今のリモートワークやワーケーションなど仕事環境の多様化に伴い,各ワーカーがそれぞれの仕事環境を自分(だけ)に適した仕事のしやすい環境にチューニングすることが可能かつ必要な時代が到来している.仕事場における音環境により生産性が変化することが指摘されており,仕事のしやすい環境として音環境の快適性が重要視されている.しかし個人の嗜好に基づいて選んだ音環境が,業務の生産性向上に繋がる「仕事場における好ましい音環境」と同一かどうかは定かではない.そこで,本稿では多様な音環境が人に与える心理的な影響と作業パフォーマンスとを評価計測し,両者の関連性を検証した.その結果,快適性により作業パフォーマンスが変化することが確認できた.作業の内容や時間により音環境を変える必要があることが示唆された.
中世ヨーロッパを舞台とする3DCGコンテンツの背景モデルにはアカンサスの葉をモチーフとするアカンサス装飾が多用されるが,造形が複雑であり形状も多様なため,手作業でのモデリングには労力を要する.そこで本稿では,アカンサス模様を構成するパーツの中でも使用頻度が高い波線型形状に着目し,その中心軸の形状を自由に制御できるようなプロシージャルモデリングシステムを提案する.また提案システムでは,従来のスライダ操作による形状制御よりも直感的な操作を可能とし,制作効率を高めるユーザインタフェースとして,モデルに直接取り付ける円盤型のコントローラを提案する.
自己肯定感とは,自らの価値や存在意義を肯定できる感情のことである.内閣府の調査において,日本人の自己肯定感は諸外国に比べて極めて低いことが示されている.自己肯定感が低いと自分に自信を持てず,そのことが日常生活のさまざまな場面でマイナスに働く.本研究では,自己肯定感を高めるために,物事を見る枠組みを変え,違う視点から捉えるリフレーミングというカウンセリング手法を自分自身で行うことができるセルフリフレーミング日記システムを構築し,実験によりその有効性を検証する.評価実験の結果,セルフリフレーミングの効果について,元々の自己肯定感が低いもしくは平均的なユーザにおいては,効果の有無がわかれるが,自己肯定感が元々高いユーザは,セルフリフレーミングにより自己肯定感のさらなる向上が期待できることがわかった.
我々は自然景観に配慮した人工芝を用いたディスプレイ及びその基礎部分となるピクセルの研究を進めている.人工芝ピクセルの階調評価の実験を行なっているが,光源やカメラの位置,ピクセルを構成する芝生の色を変更した際の環境を全て用意することは困難である.そこで,本研究では人工芝ピクセルをComputer Graphics(CG)上にて再現し,これを現実における評価の代替とすることで様々な条件に対応した階調評価を行なうことを目的とする.本稿ではCG上にて再現した人工芝ピクセルが現実の評価の代替となるかを確認するため,現実の人工芝ピクセルとの色と階調の比較を色差CIEDE2000に基づいて行なった.
近年,料理へのプロジェクションマッピングなどの料理に対する新たな演出手法が注目を集めている.料理の上に空中像を提示するために飴を材料とする2面コーナーリフレクタアレイが提案されているが,既存の形成手法では室内の湿度によって素子の構造である微小なプリズムが影響を受け空中像が提示可能である時間が短くなるという問題点が存在した.そこで空中像の提示可能時間延長のため新たな形成手法について提案する.新たな形成手法として飴のプリズムを湿度から保護するための加工を行った結果,既存の手法で作成されたものと比較して空中像の提示が可能な時間が長くなることがが確認できた.また,飴製2面コーナーリフレクタアレイを用いた料理に対する演出の一例としてお菓子の家を用いた演出を提案する.
デザイン思考をはじめとしたユーザ中心の設計手法において,ユーザテストの段階では,ユーザ体験の品質を高めて付加価値を向上させるために,プロトタイプをユーザが試用した際の利用体験を得ることが必要となる.そこで,ユーザの内観をその場で得るために用いられるのがThink aloud法である.しかし,この手法には,認知的負荷の高さから十分な量の発話が得られない可能性がある.また,発話を支援するべく開発者が介入することで,却って率直な発話が阻害される恐れがある.本研究では,ユーザの率直な発話を促し,ユーザビリティ改善のヒントをより多く引き出すため,プロトタイプそのものに身体的特徴を付与しエージェント化する手法を提案し,人間の開発者が介入した場合との比較実験を行った.
物体を把持している状況での情報入力は困難であり,このような状況下での文字入力手法が必要とされている.本研究では,人差し指に親指で書くジェスチャを識別する手法を提案する.7つの反射型光センサが配置された付け爪型デバイスによって,指先の皮膚変形情報を取得することができる.取得した時系列データを用いて特徴量抽出後,ランダムフォレストにて識別した.アルファベット26種類のジェスチャセットのデータを取得し,10分割交差検証で平均識別精度を評価した.
本論文では,デジタルツイン技術を用いて実世界のレースとeレースをリアルタイムで融合した全く新しい体験について述べる.我々の構築したシステムは,レース車両のセンサデータがテレメトリを経由して仮想空間に送信される.仮想空間では実車の挙動がリアルタイムで再現される.実験では,富士スピードウェイのレース車両のセンサデータを東京のシミュレータ会場で受信し,実験当日に富士スピードウェイで開催されたレースイベントをリアルタイムで仮想空間内に再現する事で,富士スピードウェイを走行するレース車両と東京に設置されたシミュレータ会場のシミュレータユーザがリアルタイムで競技する事が確認された.
バレーボールにおいてサーブとは最初の攻撃であり,試合の流れを決める鍵である.では,より良いサーブを打つにはどうしたら良いのか.そこで,選手に目標物に向かってサーブを打ってもらい,落下地点からの距離と,Kinectで関節の座標を取得した.取得した座標群に次元削減を適用し散布図に描画,サーブの精度によって点を色分けすることによって,サーブ姿勢と精度の相関を可視化した.すると高精度で打った時,上級者の方がより一定のフォームで打てていることがわかった.また,選手によってサーブ中に姿勢が安定している時間は異なるということも判明した.今後は,unityで3Dモデル化し,上級者の動作との差異を明らかにすることで,サーブの精度に変化があるのか観察したい.
ドライアイを軽減することを目的とし,利用者のまばたき回数を自動的に検知し,その状況によってまばたきをうながすシステムを開発した.パソコンに内蔵されたカメラで取得する利用者の顔画像からまばたきを検知し,一定のルールにしたがって,画面上にまばたきのリマインドを表示する.①リマインドをしない場合,②1分に1回定期的にリマインドをする場合,③10秒間にまばたき回数が2回以下になった場合にリマインドをする場合,を比較し,現時点で明確な効果を確認するには至らないが,リマインド直後の10秒間は他の時間帯と比較して顕著にまばたき回数が増えるなどの観察を得た.従来このようなリマインド機能を実装した例はあるが,状況とは無関係に定期的にリマインドするものだけであり,利用者状況に応じて動的にリマインドを行うものはなかった.引きつづき適切なリマインド条件やリマインド方法を検討し,実用性の向上を目指す.
我々は家庭用ゲーム機における文字入力を高速化するため,2本のジョイスティックとボタンの組み合わせ操作によるゲームパッド向けかな文字入力方式を開発してきた.これまでに提案されたジョイスティックを用いる入力方式から,文字決定のタイミング,濁音半濁音の入力方法を変更することで,文字入力速度の向上を図った.大学生を対象とする評価実験により,現在一般的なソフトウェアキーボードに基づく文字入力方式より顕著に高速な入力が可能であることを確認した.本稿では,高齢者を対象に評価実験を実施し,大学生評価実験と結果を比較した.大学生評価実験では2つの入力方式は初日から同程度の入力速度を示し,日を追う毎に提案方式が差を広げ,SUSの評価スコアでも提案方式がソフトウェアキーボード方式を上回った.これに対して,高齢者評価実験では初日からソフトウェアキーボード方式の入力速度の方が高く,実験5日目に提案方式が追いついた.高齢者は個人差が大きいことを確認した.
今日,ポスター発表は登壇発表と共に研究者の発表手段の一つとして広く浸透している.事前知識を十分に持っていないポスター参加者は,発表内容が十分に理解できないことで質疑など発表者との議論を円滑に行うことが困難であると考えられる.このような場合,参加者にとってポスター発表事態の満足度が低下する可能性がある.本稿では,事前知識がある参加者であればできたであろう発表者とのスムーズなコミュニケーションを,会話スクリプトを用いて体験することによって,事前知識が十分でないポスター参加者の参加体験向上に寄与するかどうかの実験を行なった.その結果,研究内容の説明にスクリプトを用いた後に自由に質疑応答の議論を行う形式でポスター発表を行った場合に,何の制限もないポスター発表に比べて質疑応答の質の向上に寄与する示唆が得られた.
仮想空間内の瞬間移動の方法は数多く研究されている中,手持ちデバイスを使用しないハンズフリーな方法の研究や実用例は少ない.ヘッドマウントディスプレイのみを用いて瞬間移動ができるハンズフリーなシステムは,仮想体験の利便性を向上する.本研究では,視線と仮想ボタンを用いた仮想空間内のハンズフリーな瞬間移動方法を評価した.この方法では,移動先を選択するための光線(仮想ポインタ)をHMDよりも少し低い位置から出し,体や首の回転によってターゲットに当てる.そして,仮想空間に出現するボタン(仮想ボタン)に手で触れることによって,瞬間移動を行う.24人の参加者による評価では,移動時間,移動しやすさ,VR酔い,疲労について,コントローラを用いた方法と比較した.移動時間は,コントローラよりも有意に長く,移動しやすさの評価値も有意に低かった.しかし,それらの差が小さいこと,移動速度が十分であること,参加者の好みには差がないことなどから,ハンズフリーな移動方法の有用性が確認できた.
概要:ゲームの難易度とプレイヤのプレイ・スキルのバランスは,ゲーム体験を考える上で重要であり,種々の動的難易度調整の技法が研究されきている.しかし,プレイヤがゲームの難易度が下げられたと察知した場合,ゲーム体験における重要な要素である達成感や向上感などが損なわれることが考えられる.本稿では,プレイヤが感じる主観的な難易度に着目し,プレイヤが難易度の変更を気づかないようにゲームの難易度を下げる難易度調整手法を提案する.また,予備実験として同手法の検証のために簡単なゲームを作成して簡易な予備実験を行った.結果として,殆どの場合プレイヤは難易度調整に気づかなかった.また本格的なユーザ・スタディのために考慮すべき点がいくつか知見として得られた.プレイヤの主観的な難易度評価に着目した難易度調整の研究の先行例は少ないこともあり,ユーザ体験を保つ難易度調整手法の提案として,本提案手法は有益であると考えられる.
デジタルサイネージに複数のコンテンツが表示されている状況において,デジタルサイネージとスマートフォンを連携させる場合,ユーザはデジタルサイネージから対象のコンテンツを1つ選択する必要がある.しかし,従来方式で選択しようとすると,ユーザへの制約・操作負担が大きいという問題があった.本研究では,デジタルサイネージの中からスマートフォンと連携させるものを選択する方法として,アイコンの動きを真似るデジタルサイネージ選択方式を提案している.これは,ユーザがスマートフォンを把持して各デジタルサイネージ上のアイコン動作と同じタイミングで同じ動きのジェスチャを行うことで,対応するコンテンツを選択できる方式である.先行研究では,アイコンの動作時間帯とユーザがジェスチャを行う時間帯がずれることで,ジェスチャマッチングが失敗する問題があった.この問題に対し,本稿ではアイコンの動作時間帯の間にアイコンが表示されないマージンを設けることで問題解決を目指した.
関係性の浅い人同士の会話時には,人は緊張した状態である可能性が高い.緊張した状態で沈黙が生じた場合,会話が活発に行えなくなる恐れがある.この問題は,互いのノンバーバル情報が伝わりにくい遠隔コミュニケーション時に特に起こりやすい.沈黙が続いた場合に自動的に話題提示を行う手法などが提案されているが,緊張した状態で話題提供をされても,多くの人にとってはその話題で活発に会話を行うことは困難である.この問題を解決するためには,話題提供前にユーザの緊張を緩和させることが必要であると考えられる.この考えをもとに,ユーモラスな話題提供を行うエージェントを提案する.本稿では,この検討内容について報告を行う.
現在,日本には数多くの視覚障害者が存在するが,その多くは弱視者と言われている.視覚障害者誘導用ブロック(点字ブロック)は,弱視者も利用しているため,弱視者が認識しやすいように設置されていることが望ましい.しかし,点字ブロックが路面と同系色であったり,劣化したりするとユーザは点字ブロックを認識することが難しい場合がある.本来は,国や自治体がこれらの点字ブロックを管理してこの問題を防ぐべきであるが,点字ブロックが設置されている箇所は多く,管理が行き届かないという問題がある.本論文では,そのような不備のある点字ブロック情報を収集するために,点字ブロックの弱視者にとっての識別のしやすさを推定する手法の検討を行う.具体的には,画像から物体検出技術を用いて点字ブロックを検出し,ぼかしありとなしの画像で検出結果の比較を行うことで弱視者にとっての点字ブロックの識別のしやすさを推定する手法を提案する.