我々はビデオゲームを用いた研究に使いやすいオープンビデオゲームライブラリを開発した.本論文では,オープンビデオゲームライブラリが現在までに提供してきたコンテンツとそのユースケースを紹介する.また,提供コンテンツとそのユースケースにおける現状と課題を明確化し,今後のオープンビデオゲームライブラリの在り方と開発方針を検討する.
人間は誰しも同じ時間の流れの中を生きているが,集中力が高まった場面や楽しく感じる場面では時間を短く感じるなど,生理的・心理的要因により時間感覚の伸縮が起こると考えられている.このことから逆に,インタラクティブなVRコンテンツを体験するときに,時間感覚の伸縮を疑似的に体験させることで人の感情・感性に何らかの影響を及ぼさないだろうか.本研究ではVRコンテンツにおける感性評価の向上を目指し,VRバッティングにおいてボールとバットが接触した際に,VR空間内の時間を停止させることが臨場感及び迫真性にどのような影響を及ぼすかを検討した.実験の結果,停止時間0.1 s以内であればボールとバットの接触時間を認知しているものの,臨場感や迫真性の評価には影響を及ぼさないことが示唆された.
近年,日本の若者の「自己肯定感」の低下が問題となっており,自己肯定感の向上が課題となっている.自己肯定感の向上には褒めや承認,尊重が有効である.これまでに,筆者は「間接的な褒め」を用いた褒め合うSNSを提案してきた.しかし,褒める行為は上から目線であることや,SNSによって間接的な褒めを発生させることが困難であるといった問題点がある.そこで本研究では,上下関係をあまり気にしないと考えられる「尊敬」に着目した尊敬し合うSNSを作成する.さらに,ロボットが人間の代わりに第三者として情報をランダムに読み上げるシステムを提案する.予備実験を行った結果,提案システムは,尊敬の念を示しやすく,尊敬情報の取得もしやすいことが示唆された.さらに,間接的に情報を伝える行為が促進され,自己肯定感を向上させることも示唆された.
従来の字幕やキャプションは外国語の翻訳や,聴覚の障がい等で音声が聞き取りにくい人に対して映像の内容を理解しやすくために利用されてきた.一方,日本のバラエディ番組などにおいて,視聴体験を拡張する目的で画面上の見やすい位置にデザイン化した文字等を表示するテクニックはテロップと呼ばれ,英語ではインパクトキャプションと呼ばれるようになってきている.従来,字幕の自動生成等の研究はあるが,それらとは異なり本稿では,テロップの自動生成システムに関する初期的な試みを示す.映像から音声認識を利用してテロップを自動表示し,66名の大学生を対象としてアンケート評価を行った結果,テキストおよびアイコンの両方を用いたテロップが「おもしろい」「わかりやすい」「見やすい」いずれの項目でも高い評価を得た.自動テロップ付けは,音声認識だけでなく感情の自動分析などを利用しても良く,映像の新しい楽しみ方を提供できる可能性がある.さらに,自動テロップ付けをオンラインビデオ会議システムに適用することを提案し,プロトタイプを示した.
オンラインでのコミュニケーションは話し手の感情,雰囲気といった,音声と映像のみでは伝達が難しい情報が存在する.話し手の心理状態を理解する手段として,音量の強弱や声の高さといった周辺言語が重要視されているが,オンライン会議においてはそれが伝わりづらい.周辺言語の中でも特に語尾のピッチ変化は話し手の性格と印象を決定する重要な要素であるため,オンライン会議において聞き手に与える印象を変化させるために,語尾のピッチを変化させることが有効である可能性が高い.そこで本研究では,オンライン会議において話し手の意図する印象を聞き手に与えるためのオンライン会議システムを提案する.語尾のピッチ変化の有効性を確認するため,提案システムの使用状況を再現した実験を行った.語尾ピッチを上昇させた場合,聞き手は話し手に対して元気である印象を抱く傾向が有意に増加し,提案システムが印象変化に対して有効であることが示唆された.
グリッドレイアウトは,紙面を構成する要素をグリッドに基づいて配置するレイアウト手法である.グリッドレイアウトはエディトリアルデザイン等で頻繁に活用される一方で,その実現には複雑な操作が要求されてきた.本研究では,手書きストロークを入力としてインタラクティブにグリッドレイアウトを生成するインタフェースを提案する.また,提案インタフェースを搭載した組版システムをWebアプリケーションとして実装した.
本研究では,ゲーミフィケーションの看護教育への応用を行う.具体的には,看護教育における血圧測定法の学習に対してゲーミフィケーションの考えに基づき体験やインタフェースをデザインすることで,利用者のモチベーションおよび習得スピードの向上を狙いとする.血圧測定法は,医療者の重要な臨床スキルの1つであるが,正確な測定には,圧力操作をしながら血管音の性状にあわせて血圧計ゲージのメモリを読み取る複雑な動作が必要である.そこで,本研究では血圧測定のうち減圧操作に焦点をあて,ゲーミフィケーションの考えに基づき血圧測定を入力インタフェースとして用いたゲームを提案する.
日本の刑法犯認知件数は,平成元年から平成14年にかけて約280万件まで急増したが,平成15年以降は一貫して減少しており,令和3年には約56万件となり戦後最少となった.しかし近年,都市部では犯罪の認知件数が増加しており,特にひったくり等の窃盗に関しての犯罪が頻発している.窃盗の中でも,自動車盗難の被害が急増しており,警察庁によると自動車盗の認知件数は前年と比較して19.4%増となっている.こうした都市部で発生する犯罪を減少・防止するためには,犯罪が起こる場所や時期を可視化し,防犯に備える必要がある.本研究では,神奈川県横浜市を対象として,「犯罪が起こる場所」を可視化し,時期別,市区町村別に犯罪の発生傾向を明らかにすることによる防犯支援を目的として,3次元地図プラットフォームを用いた仮想都市空間上に,犯罪発生情報の可視化を行うシステムを提案するものである.
本研究では,物体検出アルゴリズムYOLOv5を用い,地方自治体等が管理する駐輪場での管理業務の支援と,駐輪場の調査業務の支援を行うシステムを提案するものである.本システムの運用体系は,駐輪場管理者を対象とした一般ユーザー用システムと,調査業務そのものの管理者となる公的な組織を対象とした管理者用システムで構成される.一般ユーザー用システムでは,駐輪場に設置された監視カメラ(ネットワークカメラ)からの入力映像をもとに,YOLOv5による推論結果をもとに生成されたデータを可視化する.管理者用システムでは,特定のVPN経由によるアクセスのみを対象にして,全国の駐輪場の情報検索と可視化を行うものとした.
我々は,手軽に触覚映像の収録と再生を行えるTeleStickを開発した.本論文では,TeleStick Recorderに取り付けている棒の先端パーツを複数の異なるパーツに付け替え,撮影者や被写体とTeleStickのインタラクションを観察した.観察の結果,異なる先端パーツがもたらす撮影者のインタラクションの違いが明らかになった.
本研究は,都市部での交通事故防止に関するデータ取得が可能なドライブシミュレーションシステムの開発を行ったものである.都市モデルとして,プロシージャルモデリングが可能なHoudiniを用い,数式と処理を組み合わせ,パスから道路モデルや交差点を生成した道路環境のモデルを制作し,これをゲームエンジンUnity及びUnrealEngineに取り込んで開発した.これまでのシミュレーションシステムは,一般的にコストが高く,その拡張性も低い専用システムであることが多かった.本システムでは,ゲームなどのインタフェースを参考として,ユーザがシステムを直感的に操作可能なものとし,また交通実験に際して様々な設定の追加が可能なシミュレーションシステムを開発した.
「サウンドスケープ」と呼ばれる環境音を立体的に表現するシステムの開発を行った.サウンドスケープとして,環境省が選定した「日本の音風景100選」に着目し,実空間で収録した音源を,視覚・聴覚的に仮想空間で同じように再生する方法を検討した.実際のサウンドスケープは,自然音,人工音,その両方が混在する複合音に分類される.本システムでは,地図情報と組み合わせて,実空間から収録したサウンドスケープをデジタルで保存し,活用していくことを目的とした.
近年,高齢化などの影響により,産業現場から熟練技術者が引退し減少すると予想されている.そのため,熟練技術者の持つ技能の伝承が課題となっている.そこで,熟練技術者の見本の動きに対して,自身の動きを重畳して表示する技能伝承システムを提案し,提案システムの評価実験計画について述べる.提案システムでは,自分自身の動きを見本に重畳することで,見本の動きとの差異を分かりやすく提示でき,教育効果の向上が期待できる.また,3Dディスプレイに出力することにより,奥行き方向の動きの差異を確認することが可能であり,2D映像と比較して教育効果の向上が期待できる.
VR空間の移動手段に,実空間でのユーザの位置と姿勢をVR空間に反映させ,現実のユーザの位置や姿勢をずらした映像を提示するリダイレクテッドウォーキングという手法がある.この手法を使うことで,実空間よりも広いVR空間を知覚させ移動ができるようになる.しかし,依然としてリダイレクテッドウォーキングには大きな実空間が必要である.そこで,歩行の際に恣意的にバランスを悪くすることで,よりユーザの移動量や回転量に大きな操作を加えることができるのではないかと考えた.そこで,歩行の際に缶下駄に乗ることにより,リダイレクテッドウォーキングの操作量を増やすことを提案する.ここではリダイレクテッドウォーキングの曲率操作に着目する.実験を通して,同じ曲率ゲインでは主観的曲率が通常の歩行に比べて缶下駄に乗った場合の方が低くなることを確認した.
メタバースでは,ユーザーが自由に仮想世界の3Dモデル(ワールド)をアップロードし,仮想空間に入り込むことができる.だが,仮想世界の3Dモデルを作るのに一定のモデリング知識やモデリングソフトのスキルなどが必要とされているため,VR初心者が想像した3Dモデルを作成することは難しい.このような3Dモデルを作るのに,簡単に操作できるシステムが必要と考えられる.そこで本研究では,仮想世界を作る前段階として,3次元部屋環境モデルを作成するVRアプリケーションの開発を行い,有用性を検証する.本稿では,そのシステムの構成及び評価実験による初期評価について述べる.体験者は,5分間のチュートリアルを通して各ツールの使い方を習い,指定された部屋モデルを作成し出力する.今回は5名の大学生及び大学院生を対象に実験を実施し,被験者全員が10分以内でモデルを作ることができた.所要時間から多くの人が5分以内にタスクを完了することができると推測された.多くの人が各モデルを作る際には,0.3m以内の誤差が出ると推測された.また,実験データおよび実験後のアンケートから,開発したアプリケーションが3Dモデリング経験のない人に有用であると考えた.
本研究の目的は,一人称ライフログ映像からユーザの何気ない行動を手がかりにすることで,実世界の重要なシーンを発見・可視化することである.実世界の重要シーンを切り出すことで,ユーザ自らが興味を持った部分を効率的に思い出すことに活用できる.本研究では魚眼レンズを用いた一人称ライフログ映像を利用することで,カメラ1台で記録が完結し,非言語行動を手がかりにして,ユーザの反応に基づいたシーンの推定を試みている.本稿では目的の実現のため,映像中の重要シーンをラベリングすることに焦点を当てる.重要シーンのラベリングにおいて,VRヘッドセットを用いた映像の追体験を行うことによって映像中の重要シーンのラベリング作業を効率的に行う方法を提案する.
視覚障害がある児童にプログラミングの授業をおこなう場合,既存のプログラミング環境を利用することは困難である.そこで我々は全盲の児童にもプログラミングができるシステムを独自に開発した.QRコードと点字を貼ったブロックを用いてプログラミングをおこなう仕組みである.本研究ではそのブロックで作成した図形を描くプログラムをSVGファイルに変換してカッティングマシンで出力するシステムを構築する.本システムによって視覚障害児も健常児と同じように図形を描画するプログラムを作成し,実行結果を確認することが可能となる.
人と触れ合うことは相手との親しみを強めたり感情を伝えたり様々な効果があることが知られている.ロボットも人との触れ合いにおいて適切な反応を返すことができれば,それらの効果が得られる可能性がある.そこで本研究では,導電性シリコンゴムを電極として使用した薄く柔軟な静電容量方式の触覚センサを開発した.このセンサの表面に人肌の柔軟性を持つ皮膚素材を貼り付け,様々な触覚刺激における静電容量の時系列データを収集し,LSTM(Long short-term memory)を用いて刺激の識別モデルを構築した.その結果,9つの状態の識別において85.1%の正答率が得られ,撫でる,叩く,くすぐる等の皮膚素材に直接触れる刺激だけでなく,手の接近/離反も高い精度で識別できることが示された.また,皮膚素材の表面を押す強弱についてもある程度の精度で識別することができ,人の手との接触においては圧力センサとしても機能する可能性が示された.
コロナ禍でオンラインのビデオ会議が急増したが,対面のコミュニケーションと比較してビデオ会議で伝わる情報量は少なく,参加者が居心地の悪さを感じる場合も多い.本論文では,参加者の表情から感情を分析して参加者にフィードバックするシステムについて述べる.感情の分析を深層学習のモデルを用いて行うには学習用のデータセットを必要とするが,表情に感情がタグ付けされたデータセットはそれほどなく,特に最近のような端末正面にセットされたカメラから映像を取得するビデオ会議に特化したものは見当たらない.プライバシーなどの面から多くのデータセットが公開されるとも考えづらく,むしろ会議をする人が場面に応じて容易に独自のデータを利用できることが望ましい.今回,一般のビデオ会議ツール(Zoom,Google Meet等)を利用しながらその参加者の表情の分析結果を表示するとともに,データの収集,タグづけおよび結果修正を容易に行う機能を開発し,基礎的な有効性を確認した.さらに,表情分析結果の表示方法についても検討を行い,数値グラフ,アイコン化などの試みを行った.どのような利用局面において誰にどのようなフィードバックを行うかについてはさまざまなケースが考えられ,今後の検討課題である.
ダイビングでのコミュニケーションは安全面や娯楽面から必要不可欠であるが,ダイビングの機材を装備した状態では発話によるコミュニケーションは困難であり,現状使用されているハンドサインにも事前学習が必要であることなどの問題がある.本研究ではダイバー同士が互いの意図を容易に理解できるコミュニケーション支援デバイスを提案する.ダイビングの活動を模擬したタスクを行う実験を地上で実施し,提案デバイスを用いた場合のコミュニケーションの相手やその意図の把握,コミュニケーションの容易さの点での有用性の評価を行った.本稿では,コミュニケーションの開始を伝える情報の提示と身振り手振りによる意図の伝達を組み合わせることで,コミュニケーションの相手やその意図を把握しやすくなり,コミュニケーションの容易さが向上する可能性が示した.
日本の文化産業戦略において,日本人の感性や伝統に支えられた文化や儀式,風習を日本の魅力として日本人自らが再認識し,発信することが重要であるとされている.本研究では,書道を題材とし,漢字と自然の関わりを伝えるために,利用者が卓上に投影された書き順を見ながら自然の造形を元に作られた漢字を筆で書くと,書いた字が自然のオブジェクトへと変化するシステムを提案する.文化体験を活用するために,実際の筆や和紙を使い,墨は書いた字を変化させるためにプロジェクターで投影する映像で表現した.
楽器未経験者にとって,楽器自体に触れる機会は極めて少ないといえる.たくさんの種類の中から選ばなければならず知識も必要となり,気軽に買うことができる価格ではないこと,楽譜を読めなければならないなど,楽器未経験者が楽器を演奏することは非常にハードルが高いといえる.そこで我々は,複数の演奏方法を取り入れた一つの楽器を提供できれば,楽器未経験者が楽器を知るきっかけになると考えた.本研究では第一歩としてヴァイオリンの演奏方法を,M5Stack-Core2,超音波センサ,加速度センサ,JOYSTICKを用いて表現したIoTヴァイオリンシステムを提案する.加速度センサでヴァイオリンの4つの弦を角度によって選び,超音波センサで音程を定め,JOYSTICKを動かすと音が出るように設定した.音声はBluetoothでM5Stack-Core2からパソコンやタブレットに接続し,デバイス内のDAWソフトの音源を使用した.楽器未経験者,経験者含め20名ほどに試してもらい,アンケートを行った.アンケート結果としては音を出すことは容易に行えるが,音程がうまく定まらないとの意見が多かった.今後問題点を調整し,また,管楽器や鍵盤楽器などの演奏方法をセンサで表現し,一つの楽器にまとめていく.
空間情報を平面的に表す2D表示の地図は,建物の位置関係を把握しやすいが,立体的な位置関係や実際の景観を把握することは難しい.一方で,空間情報を立体的に表す3D表示の地図は,建物の立体的な位置関係や実際の景観を把握しやすいが,手前にある建物で奥にある道や建物が隠れてしまい,建物の場所や道順などの平面的な位置関係を把握するのは難しい.このため,平面的な位置情報を知るために2D表示の地図を使い,立体的な位置情報を知るために3D表示の地図に切り替えて使う必要があり,同時に平面的な位置情報と立体的な位置情報を把握することはできない.そこで,本研究では2D表示の地図と3D表示の地図を同時に見ることで平面的な位置情報と立体的な位置情報を把握することができる情報提示手法の提案をする.2D表示の地図の中心部分に3D表示の地図の領域を作り,2D表示の地図から得られる平面的な位置情報と中心部の3D表示の地図から得られる立体的な位置情報を同時に把握できるユーザーインターフェースを設計した.また,3D表示の地図をより見やすくするために,3D表示領域には裸眼立体視ディスプレイELF-SR1を使用した.
複数人のグループで活動している際,どの店舗に食事に行くかなど些細な行動選択が必要となることがあるが,参加者に強い要望がなく決め手に欠けると,グループでの最終的な決定を出しにくい状況が生まれる.複数人で行動を決定する手法に多数決やじゃんけんなどがあるが,これらの手法では参加者が内に秘める曖昧な要望を考慮されない.この問題に対し,著者らはこれまでに対象に対する曖昧な要望を自然と共有しグループでの行動選択を支援するためのゲームを提案してきた.本稿では提案したゲームを複数回プレイすることで,自分の意見の伝えやすさや結論への納得感が変化するかについて検証する.実験の結果,複数回ゲームを行うことで,ゲーム戦略の中で自身の要望を表明しやすく,また他者の要望を理解しやすくなることが示唆された.
クラブDJはパフォーマンス中に処理すべき視聴覚情報が非常に多い.流れる曲の音量調整や,次にかける曲のテンポ合わせは聴覚により処理を行い,曲選びや音量のツマミ操作は視覚により処理を行う.熟達したDJは経験や場数から複雑な処理を適切に行うが,経験の浅い初心者のDJの場合,情報量の多さに適切に情報を処理しきれず,アクシデントやミスの原因となってしまう.この問題に対し,上述した視聴覚に比べ意識されることの少ない触覚に着目し,振動触覚を用いたフィードバックシステムの開発を行う.それに加え,DJが操作するコントローラー情報をリアルタイムで識別する独自システムを制作し,DJパフォーマンス中の情報を触覚に共有し,アクシデントを防⽌する等の表現⽀援を行うシステムを提案する.
オンライン上で買い物を行うネットショッピングが台頭しているが,特定の商品を顧客が買うよう購買行動を誘導するための手段は一方向的なものに限られている.今後は双方向的なやり取りを行う対話エージェントを用いた買い物支援システムが活用され始めると期待される.しかしながら,対話型買い物支援システムを設計するための知見は不足している.そこで本研究では,一部の商品を優先して買うよう働きかける対話エージェントを用いた実験システムに対するユーザの主観評価を検証した.結果として,特定商品の購買行動を誘導するシステムにおいては,エージェントが店員の立ち位置で発話する場合よりも友人の立ち位置で発話する場合の方がユーザ評価が高い点を明らかにした.
本研究では,地図と力覚デバイスを組み合わせ,バーチャルな触覚体感によって地理学的な学習の効果を向上させることを試みた。国土地理院が公開している3Dプリンタデータから制作した「地形レリーフ」によってフィジカルな体験が得られるとともに、視覚的な地理データおよび標高データから生成する力覚体験を複合したインタラクティブな教材を試作した。このような、視覚と触覚、フィジカルとバーチャルとを併せたインタラクティブ教材によって、地理に関わって学習の単元ごとの縦割り的になりがちな学習を転換し,多様な地理情報の関連性を横断的に学ぶことができることを目指している.
本稿では,電子ピアノの演奏に合わせてリアルタイムに映像が生成されるシステムのプロトタイプとその評価,また,プロトタイプをもとにしたデスクトップアプリ構築について述べる.本研究者は,映像と音楽には相乗効果があるのではないかと考えている.五感には様々なタイプの相互作用が認められており,視覚と聴覚の関係には共鳴現象や感受性の相互作用が示唆されている.また,近年の音楽におけるコンピュータの活用はインタラクティブアート分野でも盛んに行われている.本研究でのシステムはインタラクティブアートの側面を持っており,ピアノの特徴である,音域が広い点と,1台で和音を出せる点に着目した映像を出力する.プロトタイプを使用した電子ピアノ演奏の実演では,本システムが演奏に対して「楽しさ」「印象深さ」「和音が切り替わっていることへの気づき」を提供できることが示唆された.
インタフェースはわかりやすく直感的に操作できることが重視され,ユーザがインタラクションに関して考えたり試行錯誤したりする余地はあまりない.本研究ではユーザが主体的に考え行動しインタラクションを理解していく場をデザインすることを目的とし,謎解きのフォーマットを用いてユーザに対して入出力の関係が示されていないインタラクションを環境が変化する中で複数回行う状況を作り,ユーザの試行錯誤と発想の転換を誘発するひらめくしょんを提案する.本稿では,ひらめくしょんの基本構成とそれに沿って制作した2つの謎解き型インタラクションについて述べる.
小児医療における子供たちへの治療の説明や遊びの提供には課題が存在する.そこで,本研究では,プロトタイプとしてメディカルプレイにプレパレーションを組み込んだ映像インスタレーションの制作を行った.さらに,本作品を実際に体験した56人にアンケート調査を行い,入院中の子供たちの遊びやプレパレーションにメディアアートを活用する本作品の可能性について考察を行った.今回は,試行として病院での実施ではなく,患児の体験を想定したものであったが,78.6%が病気や怪我と闘う子供たちのストレス緩和が可能になると思うと回答し,98.2%が子供たち自身の病気への理解を深めることが可能になると回答する結果となり,本作品の有効性について高い可能性が示された.
対人サービスへのロボットの参入が進む本邦において,人とロボットとのコミュニケーションツールとして触覚について注目が集まっている.触覚提示の方法と被験者に与える効果に関して先行研究にて数多く報告されており,今後インタラクションデバイスへの活用が期待される.触覚提示の手法として,電気刺激を用いた方法や振動刺激を用いた方法が提案されているが,これらの方法は刺激のみの提示であり,物体の形状は提示できない.触覚提示の方法について,私たちは“硬さ”と“形状”を同時に提示できるジャミング転移現象に注目した.本研究ではジャミング転移現象を用いた可変剛性を実現する触覚提示デバイスを作成し,被験者に与える心理的効果を調査する.
TeleStickは,映像とともに触覚を収録し手軽に再生できるシステムである.我々は今までの撮影経験より,TeleStickで撮影した映像には,映像酔いを引き起こしにくいこと,場面が急に切り替わっても違和感がないこと,途中でTeleStick以外のカメラの映像に切り替わると映像の中に入り込んだ感覚が損なわれることなどの特徴があるのではないかと推測した.本研究では,これらの特徴を参考に動画を制作し,複数人に体験させ,TeleStickの持つ特徴について分析した.それを踏まえて,TeleStickのコンテンツ制作技法として,アクティブに動きながら撮影すること,後の編集によりTeleStickだけで撮影した複数の映像をつなぎ合わせることが効果的であると提案した.
人同士の抱擁は,身体的・精神的健康に様々な有益な効果があることから,人と抱擁できるロボットが多く提案されてきた.しかし,ほとんどのロボットはユーザに抱き返すことに着目していたため,可能な動作は腕を開閉することのみであった.筆者は先行研究で,抱擁中に人の頭部や背中を撫でたり叩いたりできるロボットを開発したが,抱擁の開始や終了は遠隔操作によって動作していた.本研究では,このロボットにユーザの接触に合わせて自動的にロボットが抱擁を開始・終了する機能を追加した.本稿ではその概要について説明する.
近年,美術館の展示におけるAR技術活用への期待が高まっている.一方,美術鑑賞において重要とされている比較鑑賞のAR技術による拡張は検討が進んでいない.本稿では,視野拡張ができるシースルーVRシステムであるOmniFlickViewを用いて,絵画の比較鑑賞を工学的に拡張する手法を提案する.OmniFlickViewは,HMDに後付けした全方位カメラを基に360度以上の視野拡張ができるシースルーVRシステムであり,首を振ると視野が大きく広がり俯瞰状態へ,逆に凝視するために首を止めると視野が狭まり凝視モードになる.これによりユーザは少しの首振り動作で全方位視野での美術品の検索と美術品の詳細鑑賞の両立が可能になる.本稿では,このOmniFlickViewによる周囲の絵画の検索効率について調査した結果を報告する.絵画を配置したVR空間で目的の絵画を見つけるまでの時間を,通常の視野とOmniFlickViewによる拡張視野でそれぞれ計測した結果,OmniFlickViewを使用しても絵画鑑賞をしているという感覚を大きく失うことなく,目的の絵画を素早く比較して見つけることができることが分かった.今後は今目の前にある絵画の比較鑑賞だけでなく,過去に観た作品をARで重畳しOmniFlickViewを用いて比較鑑賞することで,ユーザの絵画鑑賞体験を時空間的に増強するシステムの実現をめざす.
本研究では,過去の新聞記事から抽出した年代ごとの特徴語をデータベースとして,クロスワードパズルを自動生成し,日本語を学習する外国人や子供を支援する言語学習システムとしての確立を目標とする.クロスワードパズルの盤面の自動生成は黒マスが縦や横に連続してはならない制約や,盤面が黒マスによって分断されてはならないといった黒マスルールが存在する.これらの制約に対しては,素集合データ構造のUnion Find Treeや幅優先探索といったアルゴリズムを駆使し,自動生成には貪欲法のアルゴリズムを使用することで制作を試みる.クロスワードパズル内で問題となる単語には,時代・難易度・カテゴリなどといった属性を兼ね備えた特徴のあるクロスワードパズルの作成を検討する.さらに,興味を持った単語に関連する新聞記事へ誘うことで,新聞に新たな付加価値を与えることを提案する.
現代社会において,特に都市部では,多くの人々が電車や地下鉄などの公共交通機関を利用している.そのため,住居を探すなどの際に,駅からの距離は特に重要な判断材料になることが多い.また,都市計画の観点からも,道路や駅の位置は,その施設を利用可能な住民の数や,特定の駅の利用頻度といった問題を考える上で重要な指標となる.等時性線は,空間ネットワークデータベースの新しいクエリタイプであり,到達可能性分析を行うための有用な手段である.本研究では,駅周辺のカバー範囲を表現するために,従来の円形のカバー半径に代わりに,実際の道路距離に基づいてカバー率を計算し,可視化するものである.
本研究は,グループメンバー全員の滞在履歴データから,グループメンバー間でのコミュニケーションの状況を把握し,グループ内コミュニケーションを促進することが目的である.滞在履歴を収集する方法として,学内での滞在履歴をトラッキングしているサービス,「LATTE」を利用する.収集したデータを,時間・人・スポットを考慮した形で可視化する.今回は,ネットワークグラフでの可視化を行った.可視化した結果として,1人1人のグループ内での交友関係を知ることができた.これらによって,滞在履歴データからメンバー間のコミュニケーションの状況を理解するための,第一歩となった.
一人暮らしをしていると栄養バランスが偏りやすい.栄養バランスが偏ると,悪玉コレステロール,血圧や血糖値に異常が現れ,心筋梗塞,脳梗塞,腎臓病や糖尿病などの病気につながることがある.栄養バランスの取れた食生活を送るためには,年齢,性別と身体活動レベルを考慮した各栄養素の摂取量の基準と,食品に含まれている栄養素を把握する必要がある.しかし,食事をとるごとにどの栄養素が不足しているのかを求めるのは非常に手間がかかる.そこで本研究では,食べた料理を登録すると,足りない栄養素を補うコンビニ商品を提示する食生活支援システムAddlitを提案する.Addlitは,既に摂取した栄養素のレーダーチャートと,提案する商品を摂取した後の栄養素のレーダーチャートを重ねて可視化する.本研究では6人の被験者に対してユーザスタディを実施し,提案システムが栄養バランスへの意識向上に役立つことを確認した.
空手の組手は,2人の選手が対戦する競技形式の一つである.組手においては,突きや蹴りの直前に,腕や足を引く,肩を下げるなどの予備動作が存在する.予備動作があると相手に攻撃のタイミングを知られてしまうため,組手の上達においては,この予備動作を抑えることが重要となる.しかし,初心者や中級者にとって自分自身の予備動作を正確に把握し,練習で予備動作を抑えるよう改善することは困難である.そこで本研究では,加速度データを活用し,初心者が自身の予備動作を直観的に把握できる練習支援システムの構築を目指す.あらかじめ予備動作が含まれていないデータセットを準備し,入力されたデータとのDTW距離を基にした独自の計算方法で類似度を計測することで予備動作の有無を推定する新しいマッチング手法を提案し,評価を行った結果86%の精度で推定できることがわかった.さらに,提案手法を活用した練習支援システムを開発し,予備動作を小さくするための練習をどれほど支援する効果があるのかを評価する実験を行った.実験の結果,提案システムを用いた単発的な練習では予備動作を小さくする効果は見られなかったが,ユーザが自身の予備動作を直観的に把握するのを支援する効果があることがわかった.
近年の教育現場ではGIGAスクール構想が進められており,タブレット端末やパソコンなどの電子機器を用いた教育が進んでいる.しかし電子機器を用いた教育が進むにつれて手書き文字を使う頻度が減少し,書くのが不慣れになっていく可能性がある.手書き文字は読み手に気持ちを伝える手段として効果的であり,そのために文字をきれいに書くことが求められる.そこで本稿では,学習指導要領でも書写の際に意識する点の1つである筆圧に注目し,お手本となる文字とユーザが書いた文字の筆圧差を可視化することを行った.筆圧差を視覚的にユーザに提示することで,手書きで文字をきれいに書けるようになる支援システムの提案を行う.
スマートウォッチ向け日本語入力インタフェースは,これまで限られた操作領域の効率的な利用と規則的で分かりやすい操作性に主眼をおいた提案が行われてきた.本研究では,ユーザが使い慣れた既存のインタフェース,具体的にはスマートフォンのフリック日本語入力インタフェース(以降,テンキーフリック方式)との操作の共通性を考慮したかな入力方式PonDeFlickを提案する.PonDeFlickはタッチスクリーン全体をフリック操作に利用できる円環型レイアウトを採用しながら,テンキーフリック方式とフリックの向きを共通化している.比較対象をスマートフォン上のテンキーフリック方式として大学生18名を対象に10日間の評価実験を行った結果,普段からスマートフォンでテンキーフリック方式を使用している実験群は,6日目以降統制群に迫る入力速度に至った.誤入力率は,統制群の約60%の14.9%であった.
本研究では,赤ちゃん型対話ロボットを用いた高齢者へのメンタルサポートを目指し,人から赤ちゃんとのインタラクションで見られるような行動や楽しみを引き出すための要素を調査するために,形状に着目した予備的検討を行った.乳児の音声を発する形状の異なる5種類のロボットを用意し,非高齢被験者に各ロボットと1分間遊んでもらった.実験後,それらのロボットに対して「遊びやすさ」,「楽しさ」,「赤ちゃんらしさ」を順位付けしてもらった.その結果,「赤ちゃんらしさ」「遊びやすさ」「楽しさ」ともに赤ちゃん形状をしているロボットが丸など他の形状よりも上位に選ばれることが示された.また,人が見せる赤ちゃんに対する特徴的な行動に着目した検討など,今後の研究の方向性についても議論する.
本研究では,Pseudo-Haptics(疑似触覚)の一つとしてVR空間内で仮想物体に触れた際にハンドモデルの指先変形により仮想物体への硬さを疑似的に知覚すること目的とする.本実験では,実験参加者が指先の変形度合いが異なる3種類のハンドモデルを用いて仮想物体に触れ,硬さの知覚に影響があるかどうかを調査した.実験の結果,指先が変形するハンドモデルが硬さを明確に知覚させることはできなかったが,硬さの疑似触覚を知覚させる可能性を示した.
美術館には解説として,キャプションや音声ガイドなどの鑑賞支援ツールが設置されている.しかし,美術に対する知識が十分でない一般の所謂,美術初心者にとって美術館に設置されている既存の解説は美術の知識をある程度有している人向けであるため,美術に対する興味関心を深めることが困難になっている.そこで年代・様式・ジャンルごと,作者や作品の関連性,詳細な情報といった,美術作品に関する情報の種類別に整理し関連付け,それを可視化することで作品をより理解しやすい環境及び鑑賞体験を実現できるのではないかという仮説を立て,美術鑑賞支援ツールの設計および議論を行った.本研究では,美術館に設置してある既存の解説に難しさを感じている美術初心者が美術への興味関心と理解を深め,楽しむことを目的に美術作品の関連情報をなめらかに繋げる美術鑑賞支援ツールの実装を行った.美術館の展示室に設置できるようタブレット端末を活用し,タッチ操作やスワイプ操作を行うことで解説を段階的に読むことができるように実装を行なった.そして,本ツールを使用することで美術初心者が作品が制作された時代背景といった,作品から作品単体以上のことを感じ取ることが可能となり,美術鑑賞をより楽しむことができることを目指す.
近年,折り紙構造を用いた柔らかいロボットアームの研究が盛んに行われている.本研究では,代表的な円筒折り紙構造による軽量型ロボットアームの制作に着目し,実際の制作コストや体験の評価実験を行う.具体的には,Twisted Tower,吉村パターン,Kreslingパターンの3つの円筒型折り紙構造を手折りしてもらう制作評価実験を実施した.制作評価実験では,それぞれの折り紙構造について,規定時間にわたる制作作業を行ってもらった後,NASA-TLX法を用いたアンケート評価を実施した.実験結果として,Twisted Tower,吉村パターン,Kreslingパターンの順に制作負荷が高いことが明らかになった.
我々は以前,小型ロボット同士が協力し,卓上と壁面の間を移行する群ロボットプラットフォーム「corobos」を提案した.群ロボットが卓上と壁面を行き来できるようになることで,卓上にあるものを壁に移動させるなど,室内空間を動的に変容できると期待される.corobosは小型ロボットに3Dプリントしたアタッチメントを装着することで,卓上と壁面の移行を実現する.本稿では,以前の3種類のアタッチメントを1種類に減らし,全てのロボットが自由に移行できるようにすることで,システム全体の柔軟性を向上させた.また,移行しやすいアタッチメントの形状を設計し,形状ごとの移行率の評価を行った.さらに,卓上と壁面を移行するcorobosをユーザが自由に配置するデモを作成した.
近年,高齢者に癒しを与えるため,赤ちゃんロボットの活用が注目されている.一方で,これまでの赤ちゃんロボットは,周りの人間とのつながりを強める目的では開発されていない.本研究は,赤ちゃんロボット「ひろちゃん」によって認知症高齢者に対して親しい人との交流を疑似的に提供するため,「だれでもひろちゃん」を構築し,評価を行ったものである.「だれでもひろちゃん」は,マスクを被せることで「ひろちゃん」の個性を変更できる機能を搭載したものである.マスクにはBLEタグが入っており,BLEタグが発する電波を感知することでマスクの装着を判定する仕組みになっている.高齢者を対象にした実験の結果,「だれでもひろちゃん」が使いたいと感じさせることを示した.
カーレースゲームのコース制作において,PLATEAUという実在の都市の3Dモデルを活用する手法がある.実在の都市をコースとすることにより,制作が容易になることに加え,新たな楽しみ方が追加され,観光促進効果も期待される.しかし,プレイヤーがコースに注目しなければ,期待する効果は得られない.そこで,本研究は,プレイヤーがコースの都市に意識を向けるために,コースの都市を推測する都市当ての要素をゲームに取り入れたレースゲームTOSHIATEを提案する.PLATEAUの都市モデルデータを用いて,UnityでTOSHIATEの実装を行った.被験者実験を行ったところ,期待した効果が得られることを確認したが,実装の完成度が不十分であるという課題も明らかとなった.
学習支援システムでの利用を目的とした学習者の顔の皮膚温度と感情のデータベースを作成することが本研究の目的である.このデータベースをもとに作成される感情推定を用いると,例えば学習者が不安を感じていたりイライラとしているときに適切に介入するシステムを構築することができる.本論文では,サーモグラフィによる取得される顔の54か所のそれぞれの温度と,被験者が自ら入力する感情とを記録するシステムについて述べる.
再帰性反射材を用いることで,通常の状態では不可視だが,懐中電灯やフラッシュなどの強い光を照射したときにだけ視認できる情報提示媒体を構成できる.本研究ではこの原理を拡張し,一台のディスプレイにおいて映像の隠蔽と多重化を同時に行う手法「Magic Light Display」を提案する.提案手法では,液晶ディスプレイのバックライトモジュールを再帰性反射材に置き換えることで,強い光を照射したときにだけ視認できるディスプレイを構成する.そして,複数の映像を時分割表示し,映像の切り替えに同期して観察者が持つ光源を点滅させることにより,光源を持つ観察者ごとに異なる映像を提示する.本論文ではシステムの概要と開発したプロトタイプについて説明する.
本稿ではフレネルレンズによって像の飛び出し距離を拡張した空中映像ディスプレイを提案する.再帰反射による空中結像光学系で長い飛び出し距離を実現するためには,飛び出し距離と同じ長さの光源-ビームスプリッタ間距離が必要である.そこで既存の光学系にフレネルレンズを挿入することで飛び出し距離の拡張を実現した.さらに飛び出し距離別にレンズの有無による輝度の変化を検証した.
本研究では,発光細菌をインクとし,デジタルスクリーン製版を用いた作品の制作を通して,デジタルディスプレイとは異なる構造によって生み出される映像の可能性について検討する.現代のデジタル映像を表示する構造や,平面上での微生物の動きに注目した実践を踏まえ,デジタルスクリーン製版を用いて描画した文字が,発光細菌の生命活動によってゆっくりと滑らかに変化していく作品を制作した.本作品による発光細菌の変化や微弱な光は,映像を表示する構造や,映像鑑賞の形式を再考するものである.
インタラクティブな音楽インスタレーションは,入力インターフェースの開発と共に発展してきた.本研究では,言語学における音象徴の存在を下敷きに,図形の入力から取得した,凸性の欠陥や輪郭の頂点に占める鋭角の割合などの特徴量に基づき音色を決定するシステムを開発する.このシステムを用いた体験型作品を展示しアンケート調査を行ったところ,74.7%の体験者が図形と音色に関連性を感じることが出来た.
本稿は,Jinhaらによって提案された,二次元操作と三次元操作を融合させたシステムSpaceTopの改良を試みたものである.SpaceTopは透過型有機ELを用いた高価なシステムであり,同種のシステムを構築・検証することが難しい.また,壁や天井に深度カメラなどの装置を設置する大掛かりなシステムであるため,通常使うパーソナルコンピュータとしての用途を開拓しづらかった.本稿で提案するLaptop SpaceTopは,SpaceTopを安価に実現するとともに,ノートパソコンのように折りたたんで持ち運べ,バッテリー駆動で使用できるように改良した.
MR/AR/VRにより現実世界と仮想世界を繋いだ多人数参加型の音楽体験を可能にするアプリケーション「Avatar Jockey」を用いた体験型展示を行った.そこで体験者に回答して貰ったアンケート結果から,XRを用いた観客参加型ライブパフォーマンスはパフォーマンスとして成立するのか,また観客は参加性を感じ楽しむことができるのか,といった可能性について考察する.