在宅勤務が職場の関係性及びメンタルヘルスに及ぼす影響 (013)

COVID-19の世界的な流行により在宅勤務が急速に普及する中,労働者のメンタルヘルスや仕事の創造性が低下する問題が指摘されている.これらの問題を解決するためには,在宅勤務の導入によって職場の同僚間のコミュニケーションにどのような影響を及ぼしているかを理解することが重要である.そこで本研究では,在宅勤務における職場の同僚間のコミュニケーションに着目し,繋がりの強い同僚間のコミュニケーションパターンと繋がりの弱い同僚間のコミュニケーションパターンの差異を明らかにする.在宅勤務を余儀なくされた従業員17名を対象とした経験サンプリング,インデプスインタビュー,アンケートを組み合わせた調査の結果,繋がりの強い同僚との繋がりは維持されているものの,繋がりの弱い同僚との繋がりがさらに弱まっていることが分かった.また,繋がりの強い同僚間のコミュニケーションと繋がりの弱い同僚間のコミュニケーションの二極化が,在宅勤務時の不安感を増大させる要因の一つとなることが示唆された.

赤堀 渉,中谷 桃子,橋本 遼,山下 直美(NTT)
オンラインアンケート回答時のスマートフォン画面操作状況に基づく不適切回答検出 (014)

アンケートにおいて,なるべく楽に早くタスクを完了しようとする「Satisficing(努力の最小限化)」という態度により,結果の信頼性が低下する問題がある.より正確な結果を得るためには,Satisficingを検出して分析対象から除外するなどの前対処が必要となる.これまでに,回答時間に基づく検出手法や,指示違反や矛盾を問う質問群を追加する手法が考案されてきた.しかし,前者では回答時間を故意に水増しした回答を適切に除外することができない.また,後者は回答者を疑ってスクリーニングするようなものであり,回答者のモチベーションを損ねてSatisficingを助長してしまう原因となる.そこで我々は,回答時間だけでなく回答中の画面操作を利用することで,より高精度にSatisficingが検出可能になるのではないかという仮説を立てた.しかしながら,(1)画面操作が記録可能なアンケートシステムが存在しない,(2)記録できたとしてどのような特徴がSatisficingと関連しているのか不明であった.そこで,我々は世界中で利用されているLimeSurvey用の画面操作記録プラグインを開発し,多人数(5692人)の様々な画面操作ログを収集して,機械学習によるSatisficing検出を行なった.Leave One Out交差検証による評価の結果,検出率は85.9%を達成し,同様のタスクに取り組んだ先行研究の検出率55.6%を大幅に上回るものとなった.また,本稿で新たに提案した特徴量の中では,スクロールに関連する特徴の寄与率が高い一方で,テキストの削除に関する特徴の寄与率は低い結果となった.

後上 正樹(奈良先端大),松田 裕貴(奈良先端大/国立研究開発法人科学技術振興機構さきがけ),荒川 豊(九大),安本 慶一(奈良先端大)
ウェアラブルセンサを用いた動作計測実験における機器装着バイアスの検証 (026)

他人から注目を浴びると普段以上の成果を出そうとする心理効果をホーソン効果と呼ぶ.ホーソン効果は人の行動に良い影響を与える効果として主に挙げられている.例えば,医療の現場において他人から見られているといった状況から手指の消毒回数が増え,衛生施行状況が改善されたり,集中的に患者を治療すると症状が改善されたりする.しかし,この効果はウェアラブルセンサを用いた動作計測実験においては大きな問題を引き起こしている可能性がある.具体的には,センサの装着自体が,実験者の「装着部位を動かして欲しい」といった期待を表し,それが被験者の動きに影響している可能性がある.もし,センサ装着位置の身体部位は大げさに動かしてしまう,などの影響が現れていれば,ウェアラブルセンサを用いてこれまで行われてきたあらゆる評価実験の信頼性に疑問が生じることになる.そこで本研究では,同じ動作をセンサ装着部位を変えながら行わせる実験をすることで,センサを装着すること自体が被験者のジェスチャ軌跡に与える影響を評価する.本稿では,センサの取り付け位置を左右の手首に限定し,複数のジェスチャを行った被験者の映像を解析した.結果,センサ装着部位の違いによって動作が変化することから,これまで実施されてきたセンサ装着によるスキル評価や行動認識の成果はホーソン効果を含む機器装着バイアスの影響を含んでおり,そのまま信頼できないのではないかという重要な知見が得られた.

河村 知輝,土田 修平,寺田 努,塚本 昌彦(神戸大)
視線を用いた1次元ポインティングにおける1次サッカードエラー率のモデル化 (019)

視線を用いたポインティングでは,特に小さいターゲットを狙うときに1次のみのサッカードでは到達できず,2次以上のサッカードが発生する.2次以上のサッカードの発生は操作時間を増加させるため,高速な選択を行いたい場合,1次サッカードのみでターゲットに到達できることが望ましい.本研究では,1次サッカードエラー率のモデル化を行う.提案モデルは,ターゲットまでの距離とターゲットの大きさをもとに,1次サッカードの終点分布の正規性と,標準偏差,平均の変動の傾向から,1次サッカードエラー率を予測する.1次元のポインティングタスクによる実験データに対し,提案モデルは高い適合度および,交差検証の結果,低い平均絶対誤差を示した.また,提案モデルを用いて,既存のGUIにおける1次サッカードエラー率を予測し,修正例を示した.

島田 雄輝,薄羽 大樹,宮下 芳明(明治大)
動画の再生速度が視聴後の作業速度に与える影響 (015)

スマートグラス上に特定の情報を提示することでユーザの心理・行動を制御するシステムが提案されてきている.しかし,従来のシステムでは,ユーザがシステムの対象とする行動中に視覚情報を閲覧することで受ける影響について考えられており,閲覧後のユーザの行動への影響については考慮されていない場合が多い.スマートグラス上に提示する視覚情報が,閲覧後のユーザの行動に与える影響を明らかにし応用することで,普段利用するSNSやニュース,動画などのコンテンツをユーザがただ閲覧するだけで,後の行動が気付かないうちに活性化されるといった効果が期待できる.そこで本研究では,スマートグラス上で視聴する動画の再生速度が,後のデスクワークなどにおけるタスクパフォーマンスに影響を与えられるかについて検証を行う.再生速度の速い動画が,後の作業速度を向上させ,遅い動画が,後の作業速度を低下させるという仮説を立て実験を行った.結果,統計的検定により,提示する動画が遅い時よりも速い時のほうが,視聴者の後の作業速度が速くなる傾向を確認した.

長谷川 瑛一,磯山 直也,酒田 信親,清川 清(奈良先端大)
Blavo:黒板への筆記に合わせてガイドを表示する板書支援インタフェースの研究 (022)

黒板は電子黒板などの大型提示装置の普及が進められた現在の学校現場でも多く利用されている.しかし初任者などの板書に不慣れな教員にとって,綺麗な板書を簡単に素早く書くことは容易ではない.本研究では,黒板上での図形描画と文・文章筆記に着目し,授業者が綺麗な板書を簡単に素早く書けるように支援するインタフェースを提案する.具体的には,図形の1辺や文章の1文字目など,板書の書きはじめの部分を取得し,その部分に重畳する形で黒板上にその後の板書を導くガイドを表示することで支援を行う.板書の書きはじめの部分の抽出では,複数の画像処理手法を組み合わせることでロバストな抽出を行えるようにした.本稿では,提案したインタフェースの設計とインタフェースを実装したシステムの試作及び,図形描画支援インタフェースを実装したシステムを用いて行った評価実験とそれに基づいた操作方法の改善,2度目の評価実験について述べる.評価実験を通して,提案したインタフェースが有用である可能性を示すことができた.

秀徳 祐太,加藤 直樹(東京学芸大)
観測者の視線運動に応じた残像効果による指向性ディスプレイ (006)

高速に提示される一連のパターンが,観測者の移動や視線運動に伴い残像として合成されることを利用して,ユーザごとに選択的に画像を提示する手法を提案する.高速に切り替わる映像では情報が時系列に分散されているため,観測者がディスプレイに対して静止している場合や設定された速度と異なる相対運動を伴う場合には,ターゲットの画像は埋め込まれたままとなり知覚される像として顕在化しない.観測者の位置に依存した従来のシステムとは異なり,複数のユーザが個々の画像を同時に認識できるため,観測者の移動速度に合わせたカスタマイズ情報を提供すべき場面等で応用が可能である.

池田 遼,早川 智彦,栃岡 陽麻里,石川 正俊(東大)
ダンスステップ学習における分離学習の適用 (012)

スポーツ等の学習において,情報提示を受けつつ身体を動かしながら学ぶ学習支援手法がこれまで数多く提案されてきた.我々の研究グループでは逆に,身体を動かさずに情報提示を受けることに集中するフェーズと動作を実施するフェーズの二つに分割して学習を進める「分離学習」という学習方法を提案している.先行研究では,指先を用いた打楽器のリズム学習においてこの分離学習が有効であることを確認した.しかし,身体全体を使った動作にもこの分離学習が適用可能か,また動作の習得難易度によって分離学習の有効性が変化するかについてはこれまで検討してこなかった.そこで本稿では,身体全体を使ったダンスステップの習得のための情報提示システムを構築し,ダンスステップの習得においても分離学習が適用可能か,また動作の習得難易度によって分離学習の有効性に影響を及ぼすかについて評価した.実験の結果,ダンスステップの学習時に身体を動かさなかったとしても,身体を動かしながら行う学習との間に練習効果の差は生じなかった.

土田 修平,寺田 努,塚本 昌彦(神戸大)
VR空間での視覚刺激が着座時の触感に与える影響の分析 (003)

VR環境で柔らかいソファに座る場合,利用者は柔らかい感触を期待する.しかし,現実環境で椅子が硬い場合には,その硬さを感じてしまい,VR環境での臨場感が低下してしまう.そこで本研究では,VR環境における視点位置であるカメラ位置を操作することで,現実環境の触感をVR環境から期待される触感に近づける手法を提案した.本研究では2つのインタフェースを開発した.1つは座面を低反発なものに知覚させるインタフェースである.参加者に上半身が下に沈むような視点移動を与えることで,椅子の硬い座面が柔らかい座面になったように知覚させられることを確認した.もう1つは,背もたれを柔軟性の高いものに知覚させるインタフェースである.上半身を後傾させたような視点動作をさせることで,固定された背もたれが柔軟になったように知覚させられることを確認した.以上から,視覚情報から自己の身体の姿勢情報を上書きすることで,特別な装置を使わなくても,触感が変化する体験を提供可能であることが確認される.

五十嵐 郁瑛,松室 美紀,柴田 史久,木村 朝子(立命館大)
ビデオ通話アプリの相手映像と分離/結合した身体接触デバイスの効果検証 (004)

等身大表示のビデオ通話に身体接触デバイスとしてロボットハンドを組み合わせて握手を再現することは,相手との空間共有感(同じ空間にいる感覚)や社会的結合(親密な関係を築く絆)を強める上で有効であることが知られている.一方,スマートフォンのような携帯端末でのビデオ通話でも同様の効果が得られるかは明らかになっていない.携帯端末でのビデオ通話では,縮小表示された相手の身体と,相手の手の代替である等身大のロボットハンドの間に寸法的な矛盾が生じる.また,携帯端末とロボットハンドが分離している場合,映像上の相手の手の位置とは異なる場所で身体接触が行われると位置的な矛盾も生じる.本研究では,これらの矛盾が生じても身体接触を再現することが相手との空間共有感や社会的結合を強めるのか調査した.実験では,ロボットハンドを介して実験者と手を握り合いながら行う会話において寸法的矛盾のみ生じる条件と両方の矛盾が生じる条件を設定し,携帯端末での通常のビデオ通話と比較した.その結果,空間共有感はいずれの矛盾があっても強化されたが,社会的結合は寸法的矛盾のみ生じる条件でしか強化されず,位置的矛盾によるマイナスの影響を受けやすい可能性が示唆された.空間共有感の強化には,会話の流れとロボットハンドの動きとの同期が起因している可能性があり,相手がロボットハンドを動かしているという信念が空間共有感を強めたものと考えられる.一方,社会的結合の強化には,相手映像とロボットハンドとの位置的な一貫性が起因している可能性があり,相手の手を握っていると視覚的に感じられることが社会的結合を強化する上で有効であると思われる.

田中 一晶,黛 礼雄,髙橋 ともみ,髙木 将,岡 夏樹(京都工繊大)
eat2pic: 食事と描画の相互作用を用いた健康的な食生活を促すナッジシステム (010)

本研究では,食べるという行動を風景画に色を塗るというタスクにリフレーミングすることで,ユーザの健康的な食生活を後押しするナッジシステム「eat2pic」を提案する.eat2picは,箸型センサとデジタルキャンバスで構成されており,3つの機能(1)ユーザが一口ごとに何をどのくらいの速さで食べたかを自動的に追跡する機能,(2)食行動の良し悪しをリアルタイムで視覚的にフィードバックする機能,(3)モチベーションを維持するために短期的・長期的な目標を提示する機能を提供する.本論文では,日本食に含まれる代表的な食材45品目を対象としてオリジナルの食事行動データセットを構築し,箸型センサの食行動認識能力を検証した.また,一人暮らしの若年男性を対象としたユーザスタディを実施し,eat2picのナッジメカニズムの有効性を評価した.実験の結果,提案する箸型センサは一口ごとの摂食タイミング,食材の種類,大きさを高い精度で認識することを確認した.また,eat2picが,ユーザにゆっくりと食事をすることを促すと同時に,よりバランスのとれた食生活を動機づけることを確認した.

中岡 黎,中村 優吾,松田 裕貴,三崎 慎也,安本 慶一(奈良先端大)